「選手に気を遣っている監督でいい監督になった人っていないんだよね」最後まで見えなかった西武・松井稼頭央監督の“哲学”<SLUGGER>
編成ディレクターの潮崎哲也氏は研修の経験をこう語る。 「研修で言語化について言われた時、『そんなこと言われんでも分かってるわ』って思うんです。でも、実践しようとしていくと、うまく喋れなかったんです。研修を受けて勉強になったことはたくさんありますね」 潮崎氏はそう語っているのに、松井監督がなぜ言語化能力に乏しいのかという気になってくる。研修そのものが悪いのであれば、潮崎氏のような意見は出てこないだろう。 こうなると、指揮官の資質の問題と言わざるをえない――そう確信したのは、5月21日の試合後の記者会見だった。 3対5でロッテに7連敗を喫した試合。2点ビハインドの9回裏の攻撃で、松井監督は先頭の古賀悠斗に代えて若林楽人を代打に送った。古賀は今季、開幕から一軍にいる選手の中で最も打率が高い選手だった。その古賀の代わりに、打率1割台の若林を送ることに疑問はあったが、その采配以上に気になったのが若林の打席での姿勢だった。 2点ビハインドで先頭打者の出塁が必要な場面で、彼からは塁に出てやろうという姿勢がまったく感じられなかったのだ。根性論の話ではない。投手への向き合い方だ。 結果は空振り三振。試合はそのまま西武が敗れた。 これは指揮官に尋ねなければならない。古賀に対する代打の是非ではなくて、あの場面に必要なことは何だったのかを聞けば、監督の哲学を考える上でも一つの答えになるのではないか。そう思ったのだが、松井監督のコメントはあまりにも無味乾燥なものだった。 「本人たちは何とかと思ってやっている。何とかしようってみんな思っているし、勝敗は監督の責任です。選手は思いっきりやってもらったらいい」 昨年の暮、日頃からお世話になっている先輩ジャーナリストと食事に行く機会に恵まれた。プロ野球で多くの監督を取材している大先輩だ。その席で、「松井稼頭央はどんな監督か?」と質問を受けて「選手を気遣いすぎて、あまり指導者としての色が見えてこない」と報告すると、こんなことを教えてくれた。 「選手に気を遣っている監督で、いい監督になった人ってあんまりいないんだよね」 松井監督の指導者としての哲学――。 今回の休養を受けて、肯定できるものは残念ながら見つけることはできなかった。 取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト) 【著者プロフィール】 うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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