「わかるところ多すぎて爆泣き」ピクサー新作が日本人の心も捉え共感の声続々<インサイド・ヘッド2>
「インサイド・ヘッド2」が8月1日に日本公開を迎え、好スタートを切っている。アメリカなど世界各国では6月14日から公開されていた今作だが、日本公開から4日間の記録を合わせて、世界興行収入ランキングで2024年度のトップになっただけでなく、同歴代ランキングで10位に入った。アニメーション映画としては史上最高記録を更新し続ける大ヒットとなっている同作を、SNSの反響を交えてレビューする。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】シンパイなど新キャラもその感情を表現しながら、かわいさに魅了される ■世界興行収入ランキングTOP10入り 前作の「インサイド・ヘッド」(ディズニープラスで配信中)が公開されたのが2015年。もう9年たったのか…なんて、個人的な感傷は置いておくとして、ピクサー製作による同映画は、現在ピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)となったピート・ドクター氏が実娘からインスピレーションを受け、主人公のライリーという少女を生み出した作品だ。子どもの脳内で何が起きているのかと、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリという感情をキャラクター化して物語を繰り広げた。 続編の「インサイド・ヘッド2」は、物語上の時間経過としては2年ほど。ライリーは13歳になり、いわゆる“ティーンエイジャー”だ。思春期特有の悩みや葛藤が生まれ、それに伴いシンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシという新たなキャラクターが登場する。 ■日本人の心にも刺さる新しい感情たちの共感性の高さ 親友2人とアイスホッケーに打ち込んでいるライリーは、進学先の高校(アメリカの制度では高校は14歳からの4年制が多い)から偵察に来ていたコーチに3日間の合宿に誘われた。うまくいけば憧れの精鋭チームに入れると意気込むライリー。その合宿出発の朝、ライリーの頭の中では、ヨロコビたちが“思春期アラーム”にたたき起こされた。シンパイたちの登場である。 突如やって来る思春期。今までになく複雑な感情が沸き起こる中、親友たちが別の高校に進学することが分かる。そう、ティーンエイジャーは将来の方向性の岐路が迫る世代。このときのライリーの心のざわめきは、経験してきた大人であればなおさら共感できるものだ。 そうして始まるライリーの合宿は波乱の予感。やがてライリーの頭の中では、シンパイが暴走していく。 ああなったらどうしよう、というような未来へのシンパイが先行し、ハズカシが顔をのぞかせてなかなか主張できなかったり、本当のことが言えなかったり。あんなふうになりたい、イイナーと思っても、ハズカシがったり、ダリィと引っ込んでしまったり。 多様性が叫ばれる時代、固定概念で話してはいけないかもしれないが、特性として捉えれば、新しい感情たちは特に日本人にこそ分かりやすいように思った。実際、シンパイやハズカシの様子にはグッと心を持っていかれた。また、今回のキャラクターデザインチームのリーダーを日本人の村山佳子氏が務めていることも日本での共感性が高まる一因になるかもしれない。 SNSにも「シンパイやハズカシの行動に強く惹かれて、わかるわかると頷いてた」「わかるところ多すぎて最後爆泣きしちゃった」「心配性な人はすごい共感できる」「中学時代を思い出してざわざわ」といった感想が並んでいる。 ■脳内を表す細かな設定にニヤリとし、映像美にうなる もちろん、子どもたちにも心配や恥ずかしい感情はあって、作品としてはシンプルに分かりやすくするために前作では絞られ、続編での登場になったと思うが、それによって思春期の複雑さがよく表現されてもいると感じた。かつ大人になっていく段階の本質を捉えることに成功している。 そんな感情キャラクターがいる頭の中では、ライリーに何かあれば、司令部のキャラクターたちはボタンをポチっと押して対応する。そこに、最新の「ライリー保護システム」ではボール状で表されたネガティブなことや恥ずかしかったことを「記憶の外れ」と呼ばれる場所にチューブを使って送ってライリーの心を守ろうとし、秘密が閉じ込めてある部屋や、意識したことが流れる川などがあって、いろんなことを経てライリーという人となりが形成されているのだと見せる。それが何とも楽しいのだ。 皮肉なことを考えたら裂け目ができるとか、食べ物のことを考えたら川に野菜などが流れるとか、思い出の玉がずらっと並んでいるとか、本当にそうなってるかもしれないという具現化。作品を見終わった後、いや、見ている途中から自分の感情キャラクターたちが自分の中で同じように動いているのかもしれないと思うと楽しくなってくる。 感情たちがどうしてこうなるのかということは、恐らく子どもたちよりも経験談のある大人のほうが理解できるだろう。しかし、今作では司令部を新しい感情たちに追い出されたヨロコビたちが何とか戻ろうとする冒険譚的な面白さがあって、子どもたちの心を捉えるはずだ。 その細やかな描写のすごさに加え、特筆すべきはライリーが経験したことから生まれることを光のラインで表した「信念の泉」。ピクサーのCG技術が結実した映像の美しさはぜひ大きなスクリーンで堪能してほしい。 ■日本語版キャストも最高 さて、最後にSNSのトピックからもう一つ取り上げておこう。それは日本語吹き替え版を担当したキャスト陣だ。 ヨロコビを小清水亜美が新たに担当したほか、カナシミの大竹しのぶ、ムカムカの小松由佳、ビビリの落合弘治、イカリの浦山迅は続投。そして続編で成長したライリーを俳優の横溝菜帆、新しいキャラクターであるシンパイを多部未華子、ハズカシをマヂカルラブリー・村上、イイナーを花澤香菜、ダリィを坂本真綾が見事に表現した。 特にシンパイの多部については予告映像の段階から評判となっており、実際に見た人から「多部未華子ちゃん凄かった」「多部ちゃんの声がぴったりで没入感やばかったな」「多部ちゃん声優うますぎ」「多部さんって分からないユニークな声が印象的でお上手だった」と称賛の声が。「知らなかったからエンドロールで度肝抜かれたよ」との感想もあったが、日本語版で鑑賞した筆者は前情報で知っていても、最後でそうだったとあらためて驚いたほどで、キャラクターとのシンクロ具合が良かった。 ほか、ライリーの“秘密の推しキャラ”で中村悠一、武内駿輔、花江夏樹がキャスティングされているのも豪華。彼らの登場シーンもお気に入りの一つになるはず。 日本語版キャストも熱演して見せてくれる物語は、ライリーが“自分らしさ”を見つける旅。感情キャラクターたちの暴走においおいと思いつつ共感したり、奮闘を応援したり。見終わった後は、きっと自分の頭の中にいる感情たちを抱き締めたくなり、前を向く力をくれるに違いない。 ◆文=ザテレビジョンシネマ部