ナイル・ロジャースのギター講座 稀代のヒットメーカーがストラトキャスターを愛する理由
ナイル直伝のリズムギター練習術
─ダフト・パンクの「Get Lucky」が大ヒットしたのはもう11年も前ですが、あなたのリズムギターのスタイルに影響された若手はその後も続々登場していますね。皆があなたのリズムギターの虜になってしまうのは何故なんでしょう? ナイル:自分ではわからないな。でも一番いい例を挙げると、ビヨンセから「CUFF IT」で依頼が来た時、唯一指示されたのは「ナイルのサウンドを出してくれ」ということだけだった。その通りにプレイしたら、音符ひとつ変えられることなく僕の音がそのままレコードになってたよ。 ─最近だと、あなたが参加したLE SSERAFIMの「UNFORGIVEN」は、普段のあなたのスタイルと違ってエンニオ・モリコーネの映画音楽で聴けるようなアプローチをしていたのが面白かったです。 ナイル:彼らがあのレコーディングで特に評価してくれたところは、通常はネックピックアップばかりを使う僕としてはあまり知られていない、一味違う温かいサウンドと音の詰め方だった。あのリックはコーラス前のところで強い存在感を出していて、ベースやボーカルを除くとレコード全体を代表するようなものになっている。 ─若いミュージシャンたちに「どうしたらあなたのようなリズムギターをストラトキャスターで弾けるのか?」と質問されたら、あなたは何と答えますか? ナイル:練習また練習、だね! 正直に話すけど、僕はこのギターを手に入れた頃、まだ全然売れてなくて貧乏だった。とにかく起きている時間のほとんどをギターの練習に費やしてたよ。当時のバンドのドラマーとルームシェアしていたから、邪魔しちゃいけないと思ってトイレにこもり、タオルでドアの隙間を埋めて、音が漏れ聞こえないようにして練習に励んだものさ。 僕がどうやってこの技を身につけたのか、今だから話そう。16部音符をとにかく速く弾く練習をしたんだよ。1弦ずつ、そうやってコントロールする技を磨いた。E弦からD弦までとにかく速く行って、そこからB弦を経てG弦に行き、低いE弦へ……という風にね。そうするとしっかりコントロールできて正確に弾けるようになることがわかった。 レコードなどで僕のプレイを聴いてもらえればわかると思うけど、とてもクリーンだ。時々ちょっとした間違いはあるけど、ミスはかなり少なくて、ギターサウンドの一部という程度。ライブでは大掛かりな機材は使わないし、バックアップシステムもなければ、Pro Toolsの補助もない。つまり耳に届く全ての音は、ステージ上の9人が実際に生で演奏したものだけ。あるのは4つのペダル……チューニング用、リバーブ、あとは「Let’s Dance」で使うエコー、そしてワウペダルぐらいだよ。オーバードライブもあるけど、これはフランスのシェイラ&B.ディヴォーションのために書いた「Spacer」を演奏するときに踏むくらいで、ほとんど使わない。 ─ストラトキャスターの未来と、音楽制作やパフォーマンスの景色が変化していく中での役割の変化を、あなたはどのように捉えていますか? ナイル:ストラトキャスターは永遠に存在し続けると思う。楽器の歴史を見ると、ギターは比較的新しい楽器なんだ。古いギターの本数が少ないのは、ギターの歴史が浅いから。リュートとか他の弦楽器はあったけどね。ウードがいつ誕生したのかわからないし、バンジョーはアフリカで始まった楽器だけど、どれくらいの歴史があるのか知らない。つまりエレキギターが出てくる前の通常の6弦ギターの歴史は、かなり浅いんだよ。スパニッシュギターだってそれほど古くない。 だから、エレキギターなんてかなり新しいよね。サックスと同様、とても若い楽器だ。さっき僕が言ったアイク・ターナーやジミ・ヘンドリックスといった人たちが、ストラトキャスターの最も初期のプレイヤー。僕のギターは1959年製で、僕は1952年生まれだ。ストラトが最初に発表されたのはいつなのかわからないけど、僕が生まれるそんなに前のはずはない(*最初のモデルは1954年発売)。この惑星では新しい楽器であり、その歴史は今まさに刻まれている途中なんだよ。
Masatoshi Arano