小林愛実、ピアニスト夫婦ならではの尊重し合う子育て 幼少期の葛藤やピアノ教育の在り方についても語る #家族とわたし
日本とアメリカ、音楽教育における環境の違い
ーー小林さんは幼少期から多くのコンクールに挑戦し実績を残していますが、小さい頃から継続的にコンクールを受け続けるといった、日本のピアノ教育のカルチャーについてはどう感じていますか? 小林:今の私は、あまり小さい頃からコンクールを受けるべきだとは思っていません。中学生くらいになってわかるようになってからならいいとは思いますけど。コンクールに関係なく、どこにいても上手い子は上手いし、何にも縛られず自由にやればいいと思います。私も小さい頃は先生に勧められて受けることが多かったのですが、日本の音楽教育の環境はすごく厳しいかもしれないと、アメリカに行って感じましたね。アメリカでは、演奏会でもみんな服装は自由だし、みんな個性豊かで、「こうしないといけない」というのはなくていいなと思いました。 ーーコンクールを受けることよりも大切な体験や価値観があると。 小林:そう思います。ピアノや音楽の勉強ばかりになって、子供時代にするような普通の体験ができなくなっちゃうことはもったいないなって。私もあまり遊べなかったから、もうちょっと遊んでもよかったかなって思いますし、もしかしたら小さい頃に有名にならなければ、苦しまなかったかもしれないと思うこともあります。もちろん、いいこともありますけど。ちなみに恭平さんは、小さい頃に私が受賞しているのを見て、「いいなあ愛ちゃん」と思っていたそうです(笑)。私は、彼のようなキャリアはとても幸せだなって思いますね。 ーーそんな反田さんにも関連しますが、最近ではクラシックシーンにも自己プロデュース力や発信力を持つべきという風潮が出てきていますが、そのあたりはいかがですか? 小林:私、SNSは疎くてあまり投稿ができていないんですよ……1カ月に1回とか。でも大事だなとは思います。Instagramで人とつながることもあるし、海外の演奏がすごく上手い人を知ることもあるから。でも大事だなとは思いつつも、ついていけていない自分もいるかな。 ーーInstagramではプライベートな投稿も多く、親近感を持てそうです。 小林:そういった気軽な投稿はできるんですが、仕事のことは難しいですね。変なことを呟いて炎上してしまったらと思うと……私たちソリストは、悪いことを書かれたりすることもあるので。私自身は人の悪いことを書こうとは思わないし、SNSは良さもあるけど、それより小学生くらいの頃の、携帯電話もなく見るものはテレビくらいだった時の方が楽しかったかな、なんて思います。 ベルリンのレコーディングでは意外な“苦労”も ーー新譜のシューベルト作品ではどんな部分に特にこだわって録音しましたか? 小林:私はあまりレコーディングが得意じゃなくて、お客さんがいる1回きりのステージで弾く方がアドレナリンが出て集中できるんです。スタジオレコーディングは1人孤独ですし、何回も弾くことができる分、もっとこうできるかもって沼に入って抜け出せなくなってしまいます。最初に弾いたテイクや、最後のテイクがだいたい良かったりするんですけど、そこは自分でもわからなかったりするので……。 ーーある曲で、反田さんがエンジニアを担当したというお話を聞きましたが。 小林:最終日に2人の連弾(「ロンド イ長調D951」)を録ることになっていたので、その前に時間がある時にスタジオで聴いてくれてて、「ここはいいと思う」「ここはこのテイクで」とコメントしていましたが、エンジニアを担当したわけではありません(笑)。 ーーなるほど(笑)。念願のテルデックス・スタジオ(ベルリン)でのレコーディングですが、現地でのエピソードはありますか? 小林:今回は1年ぶりの海外渡航でしたが、レコーディング初日がホリデーだったので、お店がどこも閉まっていて、食事調達には苦労しました。しばらく日本にいるうちに、日本食が恋しくなってしまって。 私は旅先に豆とマシンを持っていくくらいコーヒーが好きなのですが、コーヒーに入れる牛乳がほしくて、夫とLime(シェア電動キックボード)に乗って、開いているお店を探し回りました(笑)。どうしても朝は自分で淹れたコーヒーに牛乳を少し入れて飲むというルーティンを変えたくないんです。 ーー最後に、12月8日のサントリーホール公演の聴きどころ、意気込みをお願いします。 小林:久々のサントリーホールですし、リリースの記念コンサートなので、気合いが入ります。プログラムはシューベルトの即興曲をメインに、後半にシューマンの「子供の情景」とショパンの「ピアノソナタ第3番」を演奏する予定です。「子供の情景」は14歳くらいの時に演奏しましたが、大人になり子供もいる今、もう一度弾いてみたいと思いました。ショパンの「ソナタ第3番」は、実は珍しく弾いたことがないんです。みなさん楽しみに待っていてください!
田巻 郁