アジア安全保障会議で中国国防部長が見せた南シナ海問題への「スマイル外交」と台湾問題への「不退転の決意」
経済の復興を優先させるための「自制」方針
最終日の6月2日午前中には、董軍国防部長のスピーチが行われた。タイトルは「中国の全世界の安全観」。その要旨は以下のようなものだった。 「習近平主席が提唱した人類運命共同体の建設の理念と全世界の発展の提議、全世界の安全の提議、全世界の文明の提議は、歴史の大勢に順応し、各国の国民の生活向上に前向きなものだとの反応を得た。中国の軍隊は、各国の軍隊と手を携えて安全の協力を深化させ、アジア太平洋と世界の長治久安の維持と保護のため、共同の繁栄のために新たなさらに大きな貢献を行っていく。 アジア太平洋地域の国民は、もともと和諧を追求し、平和を熱愛し、自主独立と自強不息、守望相助と命運与共だ。われわれは派遣主義と強権政治によるアジアの棄損を許さない。地縁の衝突や冷戦熱戦がアジアに入り込むのを許さない。いかなる国家、いかなる勢力がこの地で戦乱を起こすのも許さない。 中国は各国と共に、各国の正当な安全の利益を維持、保護していく。公正で合理的な国際秩序を共に作っていく。地域の安全に橋渡しする役割を発揮し、開放された防衛実務協力を推進していく。海上の安全の協力の典範を打ち立て、新型の地域の安全コントロールを強化していく。地域の安全協力の新局面を切り開き、アジア太平洋に引き続き、全世界の発展の安定した錨となるよう推進していく。 中国が一貫して主張しているのは、国家を大小に分けず、軍隊を強弱に分けず、すべて平等であり、すべて信を以って本と為し、礼を以って相対する。各国の軍隊との交流の中で、われわれは『実力的な地位から出発』するような(上から目線の)やり方は取らないし、他人が意志を強制するようなことも受け入れない。 対外的な防衛協力の中で、中国は正しい義理意識を保ち、義理を以って先と為す。共商、共建、共享を堅持し、互いに意味のある信頼の置ける安全のパートナーとなる。 これまで長く、中国の軍隊は危急を要する際、他国が必要な時には、しっかりと助力してきた。同時に中国もまた、広範な友人たちの有力な支持を得て、それに深い感謝を表してきた。 国際的及び地域の安全の事柄の中で、中国は他国が選んだ戦隊を圧迫しないし、さらに他国の内政には干渉しない。終始、各国の権利平等、規則平等、機会平等の推進に尽力していく。 中国は各国の合理的な懸念はもともと尊重している。だが同様に、中国の核心利益は、神聖にして犯すべからずだ。国家の主権と領土の保全を維持、保護することは、中国の軍隊の神聖な使命だ。 台湾問題は、中国の核心利益の中の核心だ。一つの中国の原則はすでに以前から、世界の共通認識であり、国際関係の基本準則だ。現在の問題は民進党当局が前衛的な態度に大きく動き、『脱中国化』を頑固に推進していることにある。両岸の社会、歴史や文化の連携を妄動的に分断し、祖先を忘れた分裂的な言論や狂言を振りまいていることになる。そんなことをすれば、必ずや歴史の恥辱の柱の上に釘付けにされるだろう。 外部の干渉勢力は、まさに『サラミ方式』ももって、不断に一つの中国の原則を空洞化させ無きものにしようとしている。台湾に干渉する法案をでっちあげ、勝手に台湾に武器を売り、違法な官員の往来を行っている。実質的に『台湾独立』を助長し、『台湾を以って中国を制圧する』ことを謀っているのだ。このような険悪な作為がまさに、台湾を苦境に向かわせているのだ。 中国が法律に依拠し台湾のことを処置しているのは、完全に中国の内政であり、外部勢力に干渉する権利はない。中国は終始、平和統一に尽力していく。だが今後、『台湾独立』分子と外部勢力の破壊に遭い、国家が分裂の危機にさらされるという事態は、終始存在する。 中国人民解放軍は終始、祖国統一を死守する不滅の強大なパワーであり続ける。将来必要とされる時には、決然としたパワフルな行為でもって『台湾独立』を阻止し、そうした陰謀が二度と陽の目を見ないようにしてみせる! 台湾を中国から分裂させようとする者はだれであれ、粉身碎骨となり、自ら滅亡していくのだ!」 以上である。このように、董国防部長は再び、台湾問題では一切の妥協なしだが、フィリピンやアメリカなどとは話し合いの余地があることを示唆したのだった。 中国は全体的にも、昨年に比べて「自重、自制」の方針が明確だった。沈滞する経済のV字復興を優先させるための「スマイル外交」と思われる。 こうした傾向は、3月前半の全国人民代表大会の閉幕後から顕著になっている。引き続き、中国外交の行方を注視していきたい。(連載第730回)
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)