アジア安全保障会議で中国国防部長が見せた南シナ海問題への「スマイル外交」と台湾問題への「不退転の決意」
米中国防相会談で語られた中国側の「反論」
これに対し、中国は「反論」を展開した。中国代表団を率いたのは、昨年8月に失脚した李尚福(り・しょうふく)国防部長(防衛相)に代わり、昨年12月に就任した海軍出身の董軍(とう・ぐん)国防部長だった。 董国防部長はまず、マルコス大統領のスピーチと同日に行ったアメリカのロイド・オースティン国防長官との会談で、フィリピンや台湾のバックに控えるアメリカを牽制した。昨年のシャングリア・ダイアログで、当時の李尚福中国国防部長はオースティン国防長官との会談を拒否したが、今年は受けて立った。董部長はこう述べた。 「中米両軍の関係が健全に発展していくことは、双方の共同利益に合致し、国際社会の普遍的な期待でもある。昨今の両軍の関係は、悪化を止めて安定させている局面で、これは苦労の末に得たものだ。両軍は衝突せず、対抗せずというボトムラインを堅持し、真に両国関係をよくする安定した基石とならねばならない。 両軍の意思疎通の目的は、理解を増進し、誤解を消去し、互いの信頼を積み上げることだ。アメリカが言行一致させ、中国と同じ方向を向かって進み、両国の国家元首の共通認識をしっかりとうまく実行していくことを願う。 和を以(も)って尊しと為し、穏を以って重きと為し、信を以って本(もと)と為すことを堅持するのだ。交流を強化し、責任を全うし、交流を推進するのだ。そうして双方の共同利益に合致する道を見出し、世界が望む両軍の正確な対処の道を結んでいくのだ。 台湾問題は、純粋に中国の内政に属し、外部勢力は干渉する権利がない。中国はこれまでの承諾にアメリカが厳重に違反していることに対し、決然と反対する。それは『台湾独立』に向けて誤ったメッセージを送ることだ。アメリカが切に誤りを正すことを促す。いかなる方式にせよ『武を以って独立を助ける』ことがあってはならない。 仁愛礁(セカンド・トーマス礁)などの問題で、中国の態度とボトムラインは明確だ。われわれは平等に、協商によって相違を解決することを堅持する。ただし挑発を激化させる行為は、絶対におかしなままにはしておかない」 以上である。前述のように、昨年はこの場において米中国防相会談は開かれていないので、単純な比較はできないが、「強硬度」がやや下がったような心象を受ける。台湾問題だけは一片たりとも妥協しないが、セカンド・トーマス礁問題はフィリピンが動かなければ動かない。アメリカとも協調するという態度だ。 そのことは、翌6月1日に行われた中国中央軍事委員会連合参謀部の景建峰(けい・けんほう)副参謀長の記者会見でも感じた。 昨年この場で、中国の主張を声高に吠えまくり、血相を変えてアメリカを非難した景副参謀長は、今年は次のように述べた。 「昨今、南シナ海の情勢は、おおむね安定している。そこは全世界の半分の商船、3分の1の海上貿易航路となっている。アメリカの商船も日々、そこを通っている。アメリカの軍艦を呼ばなくても、いつ不自由になったのだ? アメリカが南シナ海について言うことは、事実から離反している。不要なパニックを作り上げるもので、邪悪な意図を持った、言わなくてもよいことだ。 南シナ海の情勢は、局地的にはヒートアップし続けている。その根源は、フィリピンの背信、信義の放棄、侵犯挑発にある。アメリカはそれに手を差し挟み、局面を攪乱させ、トラブルを引き起こしている。 本日午前中のアメリカの発言(オースティン国防長官のフィリピンを支持するスピーチ)は、フィリピンの綱領の側に立ち、中国の正常な権利を維持する行動にスポットライトを当てたが、完全に道理のないものだった。フィリピンは、域外の勢力を引っ張ってきて介入させている。 そしてアメリカは、南シナ海で一方的に偏り、アメリカとフィリピンが組んで混乱を引き起こし、対抗と危機を作り出している。地域の平和と安定を破壊し、地域の国々の共同利益を損害している。これは決して、誰もが見たい局面ではない。 中国とASEANは引っ越すことのできない隣人だ。隣人同士で幾ばくかの悶着があるのは、いたって正常なことだ。われわれは時に余計に考えたり、時に楽観的に考えたりするが、狼を入室させてはならない。そうしたら自分の身に火が燃え移ることになる。 中国は終始、高度に抑制を保持し、対話と協商による対立の阻止を堅持してきた。しかしそうした善意の濫用は許されるものではない。権益の侵犯や挑発も、決して野放しにしておくわけにはいかない。中国は自身の主権と海洋権益を決然と維持、保護していく」 以上である。本人も述べているように、「高度に抑制を保持し」主張している様子だったのだ。