中国での日本人母子刺傷事件は本当に「偶発」か?弱腰日本は格好のターゲット、反日高揚の危険な周期に
■ 中国は「世界一安全な国」はある意味正しいが… 中国が外国人にとって世界で最も安全な国の一つである、という主張はある意味正しい。だがそれは過去の話になりつつある。 中国は世界有数の監視国家。AI監視カメラは全国津々浦々に配置され、犯罪者の検挙率は格段に上がった。また外国人記者や駐在員の行動、言動は特に緻密に監視されているので、その分、犯罪に巻き込まれにくいともいえる。 私が北京に駐在していた2000年代の初めは、まだ監視カメラはそんなになかったが、当局の尾行などが普通にあり、おかげで夜道も安心だった。ときに「あなたの安全のために」という理由で、あそこに行くな、ここに近づくなと注意を受けたことも度々あった。 軍事管制区内の友人宅に行こうとすると、突然携帯電話が鳴って、当局の監視員らしい人が、「君は自分がどこにいるのかわかっているのか」と注意された。だが、そのおかげで、スパイ容疑をかけられて身柄を拘束されることもなかった。 「あなたの安全のため」というのは、半分くらい本音だろう。2008年夏季五輪を控えた当時の中国は国際社会の新たな大国として台頭しはじめていたころであり、国際社会に対する大国の責任を果たし、メンツを守ることに非常なこだわりを持っていた。当時は確かに、外国人の安全は中国人の安全より重視されていたと実感できた。 だが、中国における「外国人の安全」は国際社会に対するメンツから、やがて外交駆け引きのカードになっていった。
■ 習近平政権で「外国人はスパイ」に それがはっきり可視化されたのは、尖閣諸島周辺海域で起きた日本の海上保安庁巡視船と中国漁船が衝突したときだ。中国人船長が逮捕された報復に、日本のゼネコン・フジタ社員がスパイ容疑で拘束された事件が起きた。 この時、中国のやり方は「人質外交」と非難されたが、船長釈放という目的をかなえることができ「人質外交」は成功体験となった。中国は国内の外国人駐在者らを保護しつつ、外交カード、人質予備軍とみなすようになった。 さらに習近平政権になってイデオロギー統制が強化されると、西側の価値観、文化を批判、否定、攻撃することで中国の伝統的価値観、文化を持ち上げるというゆがんだ愛国教育が強化されていく。習近平政権は2014年にあらゆる分野で国家安全を最重視する総体的国家安全保障観を打ち出し、国家安全教育日を制定。幼稚園児や小学生にまで外国人をスパイと疑えと教えるような排外主義的な洗脳教育が導入されていった。 こうした習近平政権のイデオロギー教育の中で、「小粉紅(ぴんくちゃん)」と呼ばれる民族主義的愛国的若者がネット上で活動するようになっていく。彼らは、文化大革命時代の毛沢東の紅衛兵のように習近平の指示に忠実で、またヒステリックに外国を批判するので、ネット紅衛兵などと呼ばれることもある。 こうした習近平政権の10年のイデオロギー教育のたまものとして、外国人に敵意をもつ「仇外情緒」の強い中国人民が増えていった。同時に、習近平政権下で、中国社会の中国人の生活環境がどんどん悪化した。 経済は悪化し、生活物価は上昇し、賃金はカットされ、失業者があふれた。言論統制や行動規制が強化され、贅沢が戒められ、不当に搾取され、社会の底辺に未来に希望が持てず、怒りや不満が常にくすぶる状況が発生した。 習近平政権は、こうした怒りや不満の矛先を党や政府、習近平自身に向かうことを恐れ、あたかも、今の中国の不幸のすべてが米国や西側社会のせいであるような宣伝をした。