なぜ、最近の「クイズ番組」はつまらないのか 「天才テレビ制作者」が考察した納得の理由
クイズ番組にも変化が必要
五味氏自身は学歴と偏差値を絶対視しているわけではない。 「凄い回答者たちを視聴者に観てもらいたかった。だから『こんな問題、解けない』という声が出るのも分かっていました」 「知の甲子園」の2回目となった2009年の優勝は奈良・東大寺学園で、世帯視聴率は17.7%。3回目の2010年は東京・開成高校が頂点に立ち、同15.5%。この時、現在はQuizKnock代表の伊沢氏が同校1年生として出場。イケメンと話題になり、のちに東大に進んだ田村正資氏(32)らも3年生で、伊沢氏と一緒に参加した。 「知の甲子園」は改革だった。学歴重視と偏差値主義に陰りが見えてきた今のクイズ番組界にも改革が求められているのかも知れない。クイズ番組は一定の視聴率をマークしていたら長寿番組化しやすいが、その分、常に古くなる危険がある。 過去に大ヒットしたクイズ番組も例外なく新しさがあった。回答者の誰が正解するかを出場者が当てる「クイズダービー」(TBS、1976~92年)。1979年6月30日の放送では40.8%の最高世帯視聴率を記録した。 海外レポートとクイズを組み合わせた「なるほど! ザ・ワールド」(フジテレビ)も斬新だった。1983年12月27日に同36.4%をマークしている。 「マジカル頭脳パワー!!」は新しいスタイルのクイズを次々と世に放った。その上、小学1年生から高齢者まで同じ問題に取り組めるようにしてあった。1996年5月2日放送で同31.6%を記録した。 五味氏は「クイズ! ヘキサゴンII」(フジテレビ、2005~11年)も画期的だったと指摘する。回答者はタレントだが、学歴は前面に出さず、問題は易しかった。たとえば「英語で1番目はファースト、2番目はセカンド、3番目は?」(答え・サード)。演出力で見せていた。 「エンターテインメントとして、きちんと成立していました」 「ヘキサゴン」も新しかったわけだ。最高視聴率は23.5%だった。 五味氏自身は2011年からは東大、京大などから選抜された俊才が超難問に挑む「最強の頭脳 日本一決定戦! 頭脳王」を始めた。伊沢氏や東大医学部卒の医師でQuizKnockにも所属する水上颯(29)たちが出演した。「知の甲子園」をグレードアップした番組だった。 「問題が小学1年生でも解ける『マジカル頭脳パワー!!』とは対極に位置する番組。異次元の難問を出しました」 その1つは回答者にQRコードを見せ、「何のQRコードか答えなさい」と問う問題。解ける人は人間離れしている。問題の難しさは最大級で、これも新しさだった。 超難問が解ける人材はどこで探すのか。 「東大のクイズ研究会などからです。『地頭がいいのは彼』といった情報を教えてくれますから。東大にアプローチすると、京大の内実も分かります。クイズ愛好家たちは繋がっていますから」 今の五味氏には懸念がある。各局のクイズ番組の制作者に日が当たっているかどうかである。 「ドラマの制作者は『凄い』という共通認識があり、それは良いことなんですが、クイズ番組の制作者についてはどうなんだろうと思っています。『クイズ番組なんて誰にでも出来る』という空気があったら問題ですね(笑)」 確かに近年はクイズ番組制作者にスポットライトが当たりにくい。1990年代までのクイズ番組制作者はスターだった。 クイズ番組制作者の苦労を考えると、それも妥当だろう。五味氏は「マジカル頭脳パワー!!」などの問題のすべてを自分でつくっていた。独特の連想ゲーム「マジカルバナナ」も考案した。 「番組が盛り上がるかどうかの決め手ですから」 クイズ番組の制作者は苦労が多い。それを乗り越え、再び大ヒット番組を生む制作者は出てくるか。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
新潮社