北朝鮮が国連決議に異常な反応を見せる理由 ── 早稲田大教授・重村智計
北朝鮮は23日、国連総会第三委員会(人権)による北朝鮮人権決議の可決を受け、「超強硬な対応戦争へ突入する」との声明を出した。国際世論など意に介さないような振る舞いを続けてきた北朝鮮が、国連の決議に異常なまでに反応するのはなぜか。朝鮮半島問題が専門の早稲田大学国際教養学部・重村智計教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
── 国防委員会の声明をどう見るか。 北朝鮮が怒っている、との解釈は間違いだ。北のプロパガンダに乗せられてはいけない。声明の中に「戦争する」といった言葉はなく、「戦争になれば」という慎重な表現に終始している。北朝鮮の政府高官にとって仕事の大半を占めるのが、主君への忠誠心競争だ。高官らは総会で決議案が可決された場合に、責任を問われるのを怖れた。攻撃的な声明による『言葉の戦争』を仕掛け、外国政府に責任を転嫁しようとした。 ── 「超強硬な対応戦争」とは具体的に何を指すのか。 核実験やミサイル発射、あるいはNPT脱退といった程度だろう。北朝鮮は外貨と原油の不足に悩んでおり、外国からの支援を必要としている。軍事行動を起こして国際社会からさらに孤立すれば、困るのは自分だということは北も分かっている。「対応戦争」という微妙な言い回しを選んだのも、国際法違反の「侵略戦争」をするつもりはないという意味だ。 ── 北朝鮮が、国連決議に対して強く反発するのはなぜか。 北朝鮮が感じているのは、国際人権圧力による崩壊への恐怖だ。12月に行なわれる国連総会本会議での採決に法的拘束力はない。だが、全193カ国がそれぞれ一票を投じるため、国際社会の総意を示すという意味で非常に重要だ。仮に本会議で可決されれば、正統性・大義名分・メンツという儒教的独裁国家の三大価値観に大きな傷が付いてしまう。北としては何としても阻止したいはずだ。 ── 北朝鮮人権状況決議案は、安保理に対して国際刑事裁判所(ICC)への付託を求めている。 ICCの付託には安保理決議が必要だが、捜査の開始はICC検察官の判断で可能だ。万が一にもICCの捜査という事態になれば、金正恩第一書記に対して逮捕状が発行され、海外訪問時に逮捕される可能性も出てくる。指導者の渡航が制限されれば、北朝鮮外交にとっても、大きな痛手だ。 ── 日朝交渉は訪朝団の派遣以降、大きな動きをみせていない。 国際社会で北朝鮮の人権問題に対する関心が高まっており、韓国でも与野党から提出された北朝鮮人権法案が成立に向かって動きはじめている。北としてはこの状況の中で拉致を認めるわけにはいかないし、調査報告も送らせざるを得ない。日本政府は国際世論の圧力を通じ、拉致問題が解決すれば国連決議も解消されると北に分からすべきだ。