飛躍と失速…2024年サッカー界の「変化」 面より点、流れより刹那の爆発力【コラム】
一発で仕留め、1対1のデュエルに強いチームが欧州主要リーグの首位に
2024年もまもなく終了。J1リーグはヴィッセル神戸がリーグ連覇だった。欧州はまだシーズン途中だが、プレミアリーグ以外はひとまず年末休み。優勝争いはほぼ例年どおりだが、少し変化は出ている。 【動画】「美しすぎる」「史上最高だ」とファン驚愕…レアルの最先端・“近未来型”のベルナベウ スペインはアトレティコ・マドリードが首位、2位レアル・マドリード、3位FCバルセロナ。三強の争いは変わらないがバルセロナとの首位決戦に勝ったアトレティコが一歩リードしている。三強では唯一の堅守速攻型。2011年から率いているディエゴ・シメオネ監督はシステムを変え、攻撃方法を変え、当然選手も入れ替わってきたわけだが、今季は原点に回帰した感がある。キリアン・ムバッペの加入とトニ・クロースの引退で新たなチームの姿を模索しているレアル、ハンス・フリック新監督を迎えた新生バルセロナに比べると安定感があるのかもしれない。 イタリアはナポリ、インテルを抑えてアタランタが首位に立っている。こちらもジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督が2016年から率いている長期政権。マンマークのハイプレスが特徴的だ。 ドイツは昨季王者のレバークーゼンを抑えてバイエルン・ミュンヘンが首位。フランスはパリ・サンジェルマンが10ポイントの差をつけてトップ。どちらもそれぞれのリーグで突出したビッグクラブで選手層が厚く、長く一強状態である。その牙城を崩すのは容易ではなさそうだが、戦術的に尖鋭化しているレバークーゼンとマルセイユが2位につけているのがちょっとした変化だろうか。 年末休みのないイングランドはリバプール、チェルシー、アーセナルの優勝争い。マンチェスター・シティは大失速で17試合を消化した時点で7位まで後退している。 アトレティコ、アタランタ、リバプールの首位がちょっとした変化だ。いずれも守備が強み。攻撃力も優れているけれども基盤は守備である。 攻撃力でねじ伏せてきたレアル、バルセロナ、シティの失速も影響しているのかもしれないが、1対1のデュエルに強いチームが首位に並んでいるのは偶然ではないのだろう。 これまでパスワークという「面」の圧力で優勢だったチームが後退、デュエルに勝って一発で仕留めるような「点」の勝負に秀でたチームが優位になっている。組み立てて崩すというより、奪ったら1本の精度の高いパスで裏抜けしてゴールというような場面が全体的にも増えてきている印象である。 攻撃の配置は守備の配置になっていない。組み立てようとするほど、守備の配置からずれていくわけで、その途中でボールを失うと当然守備は不安定な状態になっている。そこを瞬時に突けるパサーと受け手の質が決め手になっていて、それができるチームほどパサーをフリーにすることも少ない。アトレティコ、アタランタ、リバプールはそのための技術、運動量、速さ、そして何より集中力が際立っている気がする。 試合の流れより、刹那の爆発力。2024年に表れていたちょっとした変化だ。 [著者プロフィール] 西部謙司(にしべ・けんじ)/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、「サッカー日本代表戦術アナライズ」(カンゼン)、「戦術リストランテ」(ソル・メディア)など著書多数。
西部謙司 / Kenji Nishibe