佐藤二朗さん(55)「僕自身がくよくよしている人間だからこそ」執筆した演劇は“負を力に変える”がテーマ|STORY
どんな人にもマイナス面はあって、それをどう力に変えていくかが、生きるということ。
佐藤さんの中で“負を力に変える”という思いが強まったきっかけは、ある人物との出会いだったといいます。車椅子ユーザーで、ユニバーサルデザインを提案するコンサルティング会社「株式会社ミライロ」を創業し、代表を務める垣内俊哉さんです。 「垣内さんは、それまで100種類以上あった障害者手帳を統一して、『ミライロID』という共通のデジタル障害者手帳を作ったり、すごくやり手の人なんです。その垣内さんが、テレビの番組で『バリアフリーではなくて、バリアバリュー。障害を価値に変える』と話しているのを見て、うわ、俺がやりたいことと一緒だ!と思って興味を持ちました。 車椅子ユーザーの彼は、大学時代にアルバイトした会社で、社長にデスクワークじゃなく、営業をやらされたそうなんです。その結果、いろんな営業先の人に覚えてもらって、トップの成績を残せた。もちろん、垣内さんが優秀だからというのは大きいと思うんですけど、『障害があることは、お前の武器だ』と言った社長もすごいなと思います」 佐藤さんも、自身の経験がもとになった『memo』(2008年公開)、とある島の置屋を舞台にした『はるヲうるひと』(2021年公開)という原作・脚本・監督を務めた2本の映画で、負を抱えた人間が、もがきながらも前を向こうとする物語を描いています。 「自分でもどうして“負を力に変える”にそこまでこだわるのか、よく分からないんですよ。ある人から『3作目の監督作はライトなコメディーを書いてみたら』と言われて、書き始めたことがあるんですが、どうしても書けない。きっとシナリオでも戯曲でも小説でも、自分が心血を注がないと書けないと思うんですが、僕にとって心血を注いで書けるのが、“負を力に変える”ことなんだろうなと。 でも、どんな小さなことでもいいと思うんですよ。たとえば、“左足を怪我して、右足でかばって歩いていたら、右足も悪くなった”なら、負が負を呼んだことになるけど、“足を怪我して歩くのに時間が掛かって、いつもより1本遅い電車に乗ったら、素敵な人に出会えた”なら、負を力にしたことになる。たぶん、どんな人にも負とかマイナス面はあって、それをどう力に変えていくかが、生きるということ。その積み重ねが人生なんだろうなと、僕は思ってます」 とても素敵な人生観。真面目で繊細な心の持ち主なのだろうなと感じさせる佐藤さんに、いつ頃から前向きな人生観になってきたのか尋ねてみました。 「いやいや、いつからかはちょっとわからないし、そもそも僕は全然、どんなマイナスなことがあっても前向きに生きる!みたいな、陽転思考のたくましい人間ではないです。相変わらず、メソメソ、くよくよしてますよ。でも、だからこそなんでしょうね。くよくよしている人間だからこそ、前向きに生きなきゃと思っているというか、そうとでも思わなければ、ずっとメソメソしがちなので(笑)。それで、負の部分を命を燃やす燃料にしているんだと思います」