今だからやりたいことを、私はやっている? アンチ効率主義な生き方を教えてくれる小屋作りエッセイ(レビュー)
Yahoo! ニュース│本屋大賞 ノンフィクション本大賞を『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』で受賞した川内有緒さん。 興味を持ったテーマに猪突猛進するバイタリティがある一方、ひとり娘の成長に一喜一憂する普通の母親でもある。 そんな川内さんが、42歳で母親になり「この子に残せるのは、“何かを自分で作り出せる実感”だけかも」と考え、取り組んだのが小さな小屋作りだった。 単なるDIYだと思う人もいるかもしれない。しかし、その過程を綴ったエッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』(新潮社)には、現代社会で見失われがちな「価値」を見つめ直すピースがある。 夫のイオ君と、幼い娘・ナナの三人による、コスパ・タイパを度外視した小屋作りは家族の何を変え、人生に何を見出したのか? 「生きる力ってなんだろう?」とセルフビルドしながら問い続けた6年間の軌跡を描いた本作の読みどころを、書店員の高頭佐和子さんが紹介する。
*** 自分で小屋をつくる。そんなことができる人ってかっこいい。でも、自他共に認める不器用人間の私には、縁のなさそうなテーマだ。素人が作った家ってどうなのか。安全性とか快適さに問題はないのだろうか。慣れない工具を使って、怪我したり腰を痛めたりしても厄介だ。プロに任せた方が、結局はコスパも良いんじゃないの? 出版社から来た刊行案内を見た時には、ネガティブな言葉ばかりが次々に浮かんできた。それでも読んでみようと思ったのは、著者がノンフィクション作家の川内有緒さんだからである。川内さんは、2022年に『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)でYahoo! ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞(現在は終了)を受賞している。投票する書店員の一人としてこの本を読んだが、それまで当たり前と思っていた美術館の楽しみ方をひっくり返す、新しい視点をくれた一冊だった。川内さんが書くならば、小屋づくりというテーマも、何か心に響くかもしれない。そんな気持ちで手に取った。 フランスのユネスコ本部に勤務していた著者と、バルセロナを拠点にサッカーライターをしていたイオ君は、パリで出会って結婚し、東京に戻って二人ともフリーランスになった。それぞれが自分自身のためにお金と時間を使い、思い立った時に旅に出る。そんな自由な生活は、娘・ナナちゃんを授かったことにより、大きく変化する。保育園に通うようになったナナちゃんが少しずつ言葉をしゃべれるようになったある日、著者はイオ君に提案する。 「自分たちで、小屋をたてたい」 唐突な希望だが、著者がそう思ったのには理由があった。まず一つは、自然の風景や田舎の生活に触れる機会がナナちゃんにはないということだ。夫婦とも実家が首都圏で、帰る田舎がない。子どもの頃に祖父母の家で見た海は、「ぶれない原風景」となって著者の中に残っている。そういうものを、娘にもあげたいという思いである。