【韓国・戒厳令騒動】霊媒師とYouTuber、怪しい「声」に尹大統領も美しすぎる金夫人も執着したワケ
(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授) 韓国で『ファーストレディ』というドキュメンタリー映画がにわかに話題を呼んでいる。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の夫人で、「美しすぎるファーストレディ」とも呼ばれる金建希(キム・ゴンヒ)氏にささやかれる数々の疑惑に関する証言をまとめたものだ。制作は「ソウルの声」という左派系の民間メディア団体による。 【写真】美しすぎるファーストレディ、金夫人と密接な関係にあったとされる霊媒師(シャーマン)のチョンゴン氏 私も公開初日12日(木)の午後に勤務先近くの映画館でさっそく観てきた。平日だったせいか、客の入りは6割程度。韓国全土で公開されたが、上映予定期間は5日間ほどである。ちなみにこの映画では、今回の非常戒厳の話は語られていない。宣布された3日よりも前に制作が終わっているためである。 この映画は偶然にも、非常戒厳の宣布騒動で大混乱している韓国の現状と見事にリンクしている。 映画では、金夫人と著名霊媒師(シャーマン)との密接な関係が指摘されている。一方、尹大統領が非常戒厳を宣布した背景には、過激思想をもつ保守系YouTuberの発言の影響が指摘されている。このYouTuberは今春の総選挙での与党大敗は「不正選挙」のせいだ主張しており、それを確認するために尹大統領自らYouTuber本人に電話をしたという。 シャーマンとYouTuber……。一見すると全く関係のない話のようにみえる。だが、大統領夫妻を取り巻く2つの“怪しい存在”の共通点を指摘する声が、韓国内でホットな話題となっている。 どういうことか。
■ 大統領執務室の移転にシャーマンの影響? 映画に登場するシャーマンはチョンゴン氏。長髪を後頭部から左胸部に垂らし、法衣風の純白な韓服に身を包んでいる姿がYouTubeなどにアップされている。見るからに、スピリチュアルな世界の人物だ。 映画では、金夫人を介してチョンゴン氏が尹大統領の意思決定に影響を及ぼしていた可能性が指摘されている。具体的には、尹大統領が候補者時代から政策の一丁目一番地として位置づけていた大統領執務室の移転計画だ。 大統領就任の朝、尹氏はソウルの青瓦台にあった大統領執務室を、3キロほど南方の龍山(ヨンサン)にある国防部庁舎に移転した。 誰もがその理由に首を傾げたのだが、映画では大統領執務室の移転に関するチョンゴン氏へのインタビューが紹介されている。尹大統領就任後の2022年12月、チョンゴン氏のオフィスで収録されたもので、カーテンを開けると、龍山にそびえる移転後の大統領執務室がある国防部庁舎がよく見える。それを指してチョンゴン氏はこう語るのだ。 「10年くらい前の2012年ごろから、あそこからの気の流れを感じたため、大統領が移転してくるべきだと考えるようになった」 やがて金夫人がチョンゴン氏と親しくなり、2017年ごろから「たびたび(チョンゴン氏の)講演を聴いていた」という。映画は、大統領執務室の移転にはチョンゴン氏の意向を受けた金夫人の影があったことをほのめかす。実際、チョンゴン氏は、執務室の移転先が検討されていたときに陸軍参謀総長公館を訪ねている。これは常識では考えられないと、映画では指摘されている。