じつは知らない、この世界の仕事の半分が「クソどうでもいい仕事」かもしれない理由
「クソどうでもいい仕事(ブルシット・ジョブ)」はなぜエッセンシャル・ワークよりも給料がいいのか? その背景にはわたしたちの労働観が関係していた?ロングセラー『ブルシット・ジョブの謎』が明らかにする世界的現象の謎とは? 【写真】日本人が知らない、「1日4時間労働」がいまだ実現しない理由 かっちりした職階と職務の定められている組織では、人員募集できるような明確な職務内容の仕事が存在しなければなりません(そこは自己目的化したブルシットジョブとムダな仕事からなる並行世界です。すべての住人が補助金申請書や入札契約書をひたすら作成している世界のようなものです)。 そのため、BSジョブの創造はたいてい、BSな物語世界の創生をともなっていて、そこには[架空の]職務の目的や役割はもちろんのこと職務遂行に必要な資格が、連邦人事管理局[アメリカの政府職員の人事を管理する独立部局]やわたしの機関の人事スタッフの規定する書式や専門的なお役所用語に一致するよう記載されています。 それがすめば、その物語に即した求人広告が必要になります。雇用資格を得るために、応募者は、業務代行している機関の使用する雇用ソフトウェアに自身の資格を認識してもらえるよう、当該の求人の題目と文言のすべてを盛り込んだ履歴書を提示しなければなりません。その人が雇われたあと、その職務は、年次勤務評価の基礎となる別の文書においても一言一句記述されていなければなりません。 応募者たちが雇用ソフトウェアを確実に通過できるよう、その履歴書をわたし自身の手で書き換えてきました。さもなくば、その人たちをわたしは面接も採用もできないからです。コンピューターをパスしなければ、その人たちを審査もできないのですから(BSJ 88~89) 一読、めまいのするような複雑怪奇なお話です。架空のポストと職務規程をつくり、そこには本当にやってもらう職務に合う適性の人間を採用しながら、採用するさいには架空のポストに即した適性で採用したかのようにみせかけて、必要とあらば履歴書からなにから書き換えて、といった気の遠くなるような作業です。でも、こうしたことは、いま日本社会で働いているかなりの人が多かれ少なかれ経験していることだとおもいます。 ここでひとつ述べておきたいのは、これはまさに仕事の渦中にいないとわからないニュアンス、「あうん」の呼吸、正当であることと不正であることのギリギリのライン、そしていわないことになっていることの限界を共有する空気などで動く論理だということです。まさにこれが「ブルシット・ジョブ」が「ブルシット」たるゆえんです。こういうことは、本格的に仕事に就く前にはなかなかわからないですよね。