『いちばんすきな花』が一貫して伝えてくれたメッセージ 藤井風の主題歌「花」ともリンク
■傷ついた心も、いつか笑顔に変わるように “雨降って地固まる”ではないけれど、私たちの生活には一見するとマイナスなことが、ポジティブな結果につながることがある。傷つきたくないし、傷つけたくない。できればぶつかりたくない。けれど、ぶつからなかったら見ることのできなかった風景があるのは確かだ。 ゆくえと赤田(仲野太賀)、そしてゆくえの教え子である穂積(黒川想矢)と希子(白鳥玉季)の男女間の友情についての結末もそう。周りからどう思われるかを気にしてギクシャクしたけれど、そうしてお互いの考えを言い合った結果、より友情の純度が上がったように感じた。 椿と元オクサマの純恋(臼田あさ美)も、たしかに別れたときは寂しかったけれど、どこか理解し合えない苦しみから解放されたことで、むしろ婚約中よりも笑顔が晴れやかになったように思う。 夜々もかつて恋愛感情を押し付けられた相良(泉澤祐希)に対して、すぐに心を開くことは難しいかもしれない。だが、友達になろうとする相良のちょっとした気づかいに、口悪く本音を返すようになったところから、新しい友情が芽生える予感もした。 何よりも「4人と1人になってしまうから5人は違う」と言った美鳥(田中麗奈)との関係性もそうだ。共に暮らした4人と入れ替わるようにして引っ越してきた美鳥。その引越しを手伝おうと、夜々、紅葉、ゆくえ、椿とそれぞれ1人ずつ家にやってくる。美鳥が「2人組が4つ」と話していた通りに。その気遣いができるのも、美鳥が恐れずに自分の気持ちをはっきりと話すことができたからだろう。 そして紅葉と傷つけ合って別れた形になった、かつての同級生・シノミヤ(葉山奨之)とクロサキのその後も描かれた。そこには、紅葉のイラストが表紙になった本をそれぞれ2冊ずつ購入し、笑顔で交換し合う姿が。まだまだその事実を紅葉が知る未来は遠いかもしれない。けれど、いつかそんな日が来てほしいと願うばかりだ。 〈色々な姿や形に惑わされるけど いつの日か 全てがかわいく思えるさ〉と、ここでもまた主題歌の「花」の歌詞とストーリーがリンクする。傷ついた心がすべて報われるとは言わないが、「いつの日か」という願いを持ち続けられることがどれだけ支えになることか。 ゆくえがニュースで見た大金星を挙げた力士は、彼女が心を痛めたちびっこずもう大会の体格の大きな子か、その子を負かした小さな子かはわからない。でも、そのどちらだったとしても当時感じていた悔しくて恥ずかしい思いに「意味があった」と言う姿に励まされる。こういう瞬間があるから、人は傷ついても諦めずに生きていこうと思えるのだ、と。 それにしても、これほど最終話に重要人物たちが総出演するドラマもなかなかない。そして見たかった風景が、次々と映し出されるのも贅沢な時間だった。つくづくあの赤い屋根の家には人を集め、そして繋いでいく力があるのだろう。そこに私たち視聴者もお邪魔した気分だ。「また来るね」と何度も見返したくなる。そんな“いちばんすきなドラマ“に出会えたことを改めて感謝したい。
佐藤結衣