テクノロジーの進化は「いいこと」しかない...「日本的な強み」を持つLOVOTと目指す、人類とAIの温かい未来
目指したのは、生命として違和感のないロボット
──技術面でも資金面でもとてもチャレンジングな取り組みですね。 ハードウェアのスタートアップは比較的難しい領域だと言われていますね。もちろんソフトウェアの領域も、世界を変えるような新しいイノベーションを生むためには大量のお金が必要な時代ではあります。とはいえハードウェアには、ソフトウェアに比べてやり直しのコストが非常に高いという性質があります。スタートアップとしてはリスクが高いので、世界的にもチャレンジする人が少ない領域ですが、だからこそイノベーションの種が埋まっているともいえます。アメリカの西海岸や中国でも盛り上がっているので、日本でも頑張りたいという思いがありました。 LOVOTには日本的な強みが生きているところがあるんです。日本はハードウェアのすり合わせがとても得意で、ソフトウェアもそれなりの力がある。何より、クリエイターの力がとても強いんです。 LOVOTを生命として認識してもらえるよう、存在として「違和感が少ない」ことを大切にしているのですが、日本には違和感を感じ取る能力に秀でたクリエイターがたくさんいます。これは、アニメをはじめとしたたくさんのクリエイティブが日本にあるおかげです。LOVOTって見た目はニュートラルですよね。生命が吹き込まれるのは動き出したときです。動き出したときにシンプルな造形が活きてくるし、動きにLOVOTの世界の認識の仕方があらわれています。これを実現するアルゴリズムの根幹にはクリエイターの力が大きく関与しています。 そういう意味で、LOVOTはハードウェア・ソフトウェア・クリエイティブという3つの領域が融合したイノベーションとして、とても有望なのではないかと思っています。 ──いくつもの領域の専門家が一丸とならないと実現できないLOVOT開発のチームビルディングはとても難しいように思えますが、どのようなところがポイントになるのでしょうか。 意識したのは、不確実性の対応をいかに高めるかです。なにが起きるかわからない、そもそも自分たちが最終的になにを作り上げるのかも漠然とした状態で、日々模索しながら進めていくというのは、多くの人にとって経験したことのない仕事の進め方です。従来の組織体系では、これはやっぱり難しい。なので、アジャイルの開発手法を全体に取り入れています。 アジャイルというのは、日々新たな発見をしていって、会社全体でそれを共有しては方針を新たに定めていくという、いうなれば会社全体で朝令暮改していくわけですね。こうした進め方に耐えられる組織を作るということは意識して進めてきました。 とはいえ、目指していたゴールは最初からブレていないんです。人が愛着形成をするために必要な存在を作りたい。わからなかったのは、そのためにどれだけのコンピュータがあればよくて、どんなセンサーが必要で、声の出し方や目の表現がどうであるべきなのか、という部分でした。最終的に「違和感がない」存在を作ることが目標のひとつだったので、あらゆる違和感が発生するために、それを取り除いていくという作業ではありました。 ──たとえばどのような違和感がありましたか。 わかりやすい例は反応速度ですね。一般的なロボットは、スマートフォン級のコンピュータが一つ入っていることが多いんですが、それだとどうしても反応が遅くなるんです。解決するためには、コンピュータを増やすか、センサーを減らすしかない。 でも、センサーを減らすと、LOVOTが認識できないことが増えてしまいます。たとえば、LOVOTは体のどこを触られても、触られていることをわかっているような反応をします。生物としては当然のことですが、もしこれができなかったら僕らは違和感を抱いて「ロボットなんだ」「機械なんだ」と感じてしまう。だったら、コンピュータを増やすしかないということになります。最終的にはLOVOTには4つのコンピュータが入って連携して動くという非常に複雑な仕組みになりました。 これって、生物の脳が多くの部位にわかれて協調して動いているのと似ていますよね。生物が進化していく過程において、神経が発達していくのと同じような経緯を、結果として開発の過程でたどったのかなと思っています。 ──生命として違和感のないロボットを作るために、生命の進化と同じ過程をたどったというのは面白いですね。 考えてみると、生命そのものが究極のアジャイルなんですよね。多くのバリエーションを生み出し、その淘汰によって進化を生み出しているので。いろいろな試行錯誤の中で、LOVOTもそれに近いやり方になっていったのだなと感じます。