学業でも野球でも夢を追い続ける ~東京工業大学野球部の奮闘~
捕手兼主務・堀部貴徳
堀部貴徳捕手(2年、岐阜)は大学野球界では異色の存在だ。もともと、外野手を務めていたが、冨田がチームを離れたため、その穴を埋めるべく今季からは捕手を務めている。一方で、試合外では主務として奮闘する。オープン戦の対戦相手の決定や取材対応など多様な仕事をこなす。学業では建築学を専攻している。その中でも、学校建築のような身近な建築に興味がある。「実用的な建築に興味がある。学校建築は限られた敷地や建蔽率を守りながら効率的な空間を考えなければならない。時代が変わっても対応できるところが良いなと思う」。野球にも建築学と同じ緻密な良さがあると語る。「バスケットボールやサッカーには新しい戦略がある。野球はスクイズやエンドランが昔から変わらずある。ピッチャーの投げる球種が変わっても戦略として通用する。野球が変化しても正攻法自体は変わっていない。作戦がうまく決まって接戦を最後の最後でサインプレーで勝つ細かいスモールベースボールが好き」。緻密な野球で東工大野球部を上位へと導く。
主務としての苦労
東工大野球部が試合成立すら厳しい人数の部員数まで落ち込んだのは今年の新入生歓迎活動の失敗による部分が大きい。7人の選手が入部した昨年と比較して、今年は槙野凱一投手(1年、岡山城東)わずか一人。現状を打破すべく、チームではSNS運用にも力を入れる予定だ。 また、実戦不足を補うために積極的にオープン戦を組んでいる。主務が代々引き継いでいる連絡先のリストを駆使して、東都3部のチームや他連盟のチーム、関東のクラブチームに対して野球部のSNSアカウントを通して試合を申し込んでいる。他の部活動との関係で東工大グラウンドが使用できない場合には、相手チームで試合ができるように取り計らうこともあるという。
監督・コーチは大学院生
東工大野球部を悩ますもう一つの問題は資金不足だ。大学からは十分な資金援助を受けることはできず、部費とOBからの寄付によって費用を賄っている。しかし、部員数の減少により十分な部費を徴収できず、壊れたピッチングマシンを修理するための費用を捻出することすらできない。そこで、ピッチングマシンが使えない状況でも効率的に練習ができるように監督やコーチに協力を仰いでいる。シート打撃で元投手だった監督の球を打つこともある」と語る。東工大野球部の監督やコーチは野球部OBの大学院生が務めている。最近まで現役でプレーしていた監督やコーチの投球から打撃練習を行うことで、マシン特有のシュート回転のない球を打つだけの練習から脱却する効果も見込まれる。 年齢の近い監督・コーチの下でプレーすることについて多くの部員は口をそろえてやりやすいと話す。堀部は「高校野球は厳しいチームで怯えながら毎日野球をやっていた。今はうまくなりたいという意識で練習に取り組めることが東工大野球部らしい。世界が違う」。決められた練習をこなすだけでなく、主体的に練習に取り組みやすい環境を作っている。監督やコーチが練習に協力的なことについて児島は恩を感じている。「その恩は僕らが監督やコーチとなった時には返していきたい」。先輩から受け継いだ流れを絶やすことなく後輩に継承する東工大野球部の伝統に惹かれている。