死者の結婚式 「あの世」の幸せ願う山形のムカサリ絵馬師
絵馬が果たす役割
現代になって科学が発達した世の中で、非合理的と思う人もいるだろう。インターネットではムカサリ絵馬の検索予測に「怖い」「タブー」といった言葉も並ぶ。磐田市の女性は、「知人にも薦めたいけど、なかなか絵馬のことを口にしづらい」という。死はデリケートな問題な上、死者と対話ができることをにわかに信じ難い人もいるからだ。 しかし、絵馬の依頼はなくならない。彼岸の時期になると、依頼が増えるという。 山形県内でムカサリ絵馬を描ける絵師は高橋さん一人になった。約10年で描いた絵馬は100枚以上。「根底にあるのは故人を思う親や家族の気持ち。故人にとっても遺族にとっても絶やしてはいけない風習だと思う」 描き始めた当初は難航することもあったが、完成した絵馬を渡すときの遺族の喜んだ顔や故人が嬉しそうに向こうの世界へ渡るのを見ると、一生をかけて向き合っていかなければならない仕事だと決意した。 人の思いがある限り、ムカサリ絵馬は残り続ける。
この記事は、復興庁の「新しい東北」情報発信事業として、日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が実施した東北ローカルジャーナリスト育成事業の受講者による作品です。執筆:細田香菜
細田香菜