ちゃんと家具を固定していたのに「大地震」でめちゃくちゃに…じつは「和室」に潜んでいる「意外な落とし穴」
明日、震度6強の地震が襲うと思って対策
南海トラフ巨大地震の向こう30年以内の発生確率は70~80%だが、これは30年後の確率ではなく、今現在の発生確率である。毎回講演の冒頭「近い将来この地域で大地震が起きると思う人」という問いに、約8割の人が手を上げる。次いで「では、その大地震は、今夜か明日起きると思う人」と聞くと、地域や職種によって格差はあるが平均2割ほどしか手が挙がらない。人は都合の悪い情報を都合よく考えようとする傾向にあり、見たくないものは見えないし、聞きたくないことは聞こえないものである。だから生きていられるのだともいう人もいる。 【画像】「南海トラフ巨大地震」で日本が衝撃的な有り様に…そのヤバすぎる被害規模 しかし、それが行き過ぎると正常性バイアスが働き、リスクを過小評価したり無視したりするようになる。それに「今の安全な日々がずっと続くだろう」「もし地震が起きても自分だけは大丈夫だろう」と期待する本能もある。その結果、防災対策が形式的になってしまう。 熊本地震の時、某企業のサーバーラックは床にコンクリートボルトで固定されていた。その企業の防災担当者は、熊本は地震の発生確率が「向こう30年以内にほぼ0~0.9%」と、極めて低いのでこれで十分だと思っていたそうだ。しかし、2016年4月16日の本震による震度6強の揺れで、サーバーラックは倒壊しサーバーも大破。その結果復旧までに約半年もかかってしまったという。その防災担当者は、大きな地震は起きないと思っていたので、結果的に形式的対策でお茶を濁していたのかもしれないと猛省していた。什器備品の固定は、床だけでなく天井や壁など複数個所で固定することが大切だ。 また、2018年の大阪府北部地震の時、家具はみんな固定していたという高槻市の民家を見せてもらった。危ないので靴のまま上がってくださいと言われて、おずおずと上がってみると、大きな家具が倒れ、ガラスが飛び散り、室内はめちゃめちゃになっていた。タンスや書棚を固定していた突っ張り棒が天井にめり込んだり外れたり、L金具のビスがすっぽり抜けたりして、ほとんどの家具が動いたり倒れたりしていた。病気で寝ていた高校生の息子さんが倒れてきた書棚で足を骨折したそうだ。 一般的な和室の天井はそれほど強くないので、突っ張り棒だけで家具を確実に固定できない場合がある。それでも天井に当て板を付け、家具の両サイドを突っ張り棒で固定し、さらに両側を他の固定金具で固定すれば突っ張り棒も役に立つ。つまり、家具類は複数個所を複数器具で固定することが自分や家族の命を守ることになる。 しかし、大地震発生はまだ先だと思っていると、天井が弱くても形式的に突っ張り棒を取り付けるだけで安心してしまう。大揺れから命を守るためには、年に一度でもいいので「今夜か明日震度6強の地震が襲う」と思って、真剣に対策することをお勧めする。 さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。
山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)