『ファンタジアン ネオディメンジョン』レビュー。ジオラマ製フィールドが冒険心を刺激しまくり。内田雄馬や諏訪彩花ら声優陣で深みを増す物語&爽快なバトルはRPGファン必見!
「坂口さんと植松さんがタッグを組んだ新作RPGが出るの!?」 2019年、『FANTASIAN』(ファンタジアン)が発表されたとき、筆者のように胸が躍ったゲームファンは少なくないはずだ。しかし、2021年に本作が定額ゲーム配信サービス“Apple Arcade”で配信されることを知り、恥ずかしながら筆者は食わず嫌いをしてしまった。 【記事の画像(24枚)を見る】 今回、『FANTASIAN Neo Dimension』(ファンタジアン ネオディメンジョン)をプレイしてすぐに感じたのは、激しい後悔だった。配信されたタイミングで “Apple Arcade”に加入し、『ファンタジアン』をプレイしておけばよかった、と。あのとき、うちの財布を握っている妻に相談する勇気があれば……(※)。 ※編集部注:当時最先端の有機ELテレビとサウンドバーをセットで購入して「妻には事後報告です!」と鼻息荒くしていたら案の定叱られたジャイアント黒田。以後、黒田家のお金の管理がきびしくなっていたらしい。 その“Apple Arcade”で好評を博した『ファンタジアン』が、Nintendo Switch、PS5、PS4、XSX|S、PC(Steam)向けにパワーアップして登場。 2024年12月5日、スクウェア・エニックスより『ファンタジアン ネオディメンジョン』としてリリースされる。 『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親として知られる坂口博信氏と、音楽家の植松伸夫氏がタッグを組んだ『ファンタジアン』。 プレイヤーは記憶喪失の主人公・レオアとなり、 出自が不明な少女キーナや次代の女王シャルル、豪華客船・ウズラ号の船長ジニクルといった個性豊かな仲間たちと、世界を脅かす“死械球(しかいきゅう)”による侵食の謎を解き明かしていく。 今回は記事担当ライターのジャイアント黒田によるPS5版『ファンタジアン ネオディメンション』プレイレビューをお届けする。なお、筆者が『ファンタジアン』をプレイするのは本作が初めて。 プレイレビューではゲームの魅力に触れつつ、『ファンタジアン ネオディメンジョン』で追加された新要素の特徴も紹介している。ストーリーのネタバレには十分配慮しているので、安心して読み進めてほしい。 精巧なジオラマをベースに制作されたフィールドは、冒険心を刺激する要素が満載 本作をプレイしてとくに心惹かれたのが、ジオラマの写真をベースに制作されたフィールドだ。『ファンタジアン』ならではの世界観を生み出すために、坂口氏たち開発陣は熟練の職人たちにジオラマ制作を依頼。レオアたちが冒険をくり広げる舞台は、職人たちが手作りした150点以上のジオラマから生み出されているという。 職人たちが、ひとつひとつ丁寧に仕上げたであろうジオラマは、手作りならではの温かみが感じられる。本作のような完成度の高い精巧なジオラマは、目を凝らして細部までじっくり鑑賞したくなるというもの。 このジオラマが持つ魅力がフィールド探索にうまく加わったうえ、後述する便利なシステムが用意されていたこともあり、いつも以上に探索に熱が入った。家庭用ゲーム機ならテレビの大画面でプレイしやすく、ジオラマの細部をチェックしやすいのも、40歳を過ぎた筆者にはありがたい。 ジオラマならではの“実物感”がありながらキッチュでかわいい背景。この雰囲気は唯一無二だ。南の森にあるキーナの昔の家は、筆者のお気に入りのジオラマ。老後はこんな場所で過ごしたい。 「この先に宝箱がありそうだな」という、プレイヤーの期待に応えるように、あちこちにアイテムが配置されているのもうれしい。物語が進むと開けられるようになる鍵の掛かった宝箱や、フィールドに追加される宝箱なども各地に用意されており、訪れるたびに新たな発見も体験できた。 鍵付きの宝箱からは、強力な装備品やアイテムが手に入ることも。限られた鍵をどの宝箱に使うか悩むのも楽しい。 オリジナル版と同じ難易度の “ハード”でプレイしたところ、エンカウント率は高めに設定されていると感じたが、探索に集中できるシステムが搭載されているのも好印象だった。その名は“ディメンジョンシステム”で、この機能が開放されると、一度倒した敵とエンカウントしたとき敵を別次元に閉じ込めることが可能になる。閉じ込めた敵とは任意のタイミングで戦えるので、ある程度はバトルをせずにフィールドを駆け回れるというわけだ。 ディメンジョンシステムで別次元に閉じこめた敵とのバトルシーン。 別次元に閉じこめた敵との戦闘は任意のタイミングで行えるほかに、ディメンジョンマシンが満タンになってしまうと強制的に発生する。 後者の場合、閉じ込めたすべての敵と一気に戦うことになるので、強い敵が出現する場所ではきびしいバトルになることも。探索に夢中になって閉じこめた敵のチェックを怠り、スリリングな戦いを強いられたのも旅のいい思い出だ。 スキルの軌道や効果、属性の相性などが高めてくれるバトルの戦略性 RPGのキモであるバトルは、ランダムエンカウントで敵と遭遇すると発生。戦闘中は行動速度の速いキャラクターから順番に行動できるようになる。行動順は右下に表示されるので、敵を攻撃するか、それとも仲間を回復するか。攻撃するならどの敵を優先して狙うのかといった、さまざまな戦略が考えられる。 キャラクターごとに覚えられる多彩なスキルも戦略性を高めてくれた。 とくにユニークだと思ったのは、通常攻撃とスキルの軌道調整。剣による斬撃は直線、魔法やブーメランのような投擲武器はカーブ、アイテムを合成した攻撃は円の範囲といったように、それぞれいろいろな軌道が用意されている。 仲間の行動順やバトルでの立ち位置をチェックし、適切な攻撃方法で軌道を選べば、複数の敵を一網打尽にすることも可能。 さらに、本作には炎や氷、雷、土、光、闇といった属性による攻撃の有利・不利も存在する。範囲攻撃で軌道の試行錯誤を行いながら、敵の弱点をまとめてつけたときは気分爽快。敵の名前や姿、色などから、弱点を比較的想像しやすいのも親切だと感じた。 軌道がカーブするうえ、敵を貫通する魔法は、複数の敵を狙いやすい。 敵の弱点を突くとダメージがアップ。逆に耐性のある属性だと、与えるダメージが減ってしまう。 攻撃や回復のほかに、仲間の能力を上げたり、敵の能力を下げたりするものや、敵の攻撃を引き付ける“挑発”などのスキルも習得できる。ハードで登場するボスには、敵の行動パターンに応じて、これらのスキルをうまく使わないと勝利するのが難しいことも。 たとえば、ビブラの山岳地帯で戦うボスのライラノドンは、ザコ敵のサンダー・バクロウが放つ“サンダー”をわざと食らうことで雷のエネルギーを充電。4回エネルギーを溜めると、強力な全体攻撃の“サンダーストーム”をくり出してくる。 この攻撃は、威力の高さもさることながら3回発動されるとレオアたちがフィールドから落とされてしまい、強制的にゲームオーバーになってしまうのがキツイ。 “サンダーストーム”は筆者のトラウマ。守るより攻めるが信条の筆者は、“ガンガンいこうぜ”の作戦で敗北。リベンジマッチで“挑発”の有用性に気づいた。 ザコ敵の数が少ないうちは対処できるものの、数が多くなるとザコ敵の処理が追いつかずに“サンダーストーム”を放たれてしまいがち。そんなときに活躍したのが、仲間のジニクルが使える“挑発”だった。ザコ敵のサンダーをジニクルが引き受けることで、ライラノドンは“サンダーストーム”が放てなくなる、という戦法だ。ライラノドンのほかにも、特徴的な強敵が数多く登場するので、ボス戦では手に汗握る戦略性の高いバトルが堪能できた。 バトル中の会話はボス攻略のヒントになっている。ヒントを参考に攻略法を見出そう。 また、“ディメンジョンシステム”で別次元に閉じ込めた敵とのバトルでは“ディメンジョンギミック”が戦闘を盛り上げるスパイスに。ランダムで登場するギミックを攻撃すると、攻撃力アップや再行動などさまざまな効果を得ることが可能。 ディメンジョンシステムのバトルは一度に多くの敵と戦う機会が多いものの、敵をスキルに巻き込みやすいといったメリットもある。強化された仲間で敵を一網打尽にしやすいので、通常のバトルよりも強い爽快感を味わえた。 赤い丸のアイコンが“ディメンジョンギミック”だ。このギミックを攻撃することでいろいろな効果を得られる。 戦闘を盛り上げる要素として、本作では一部の戦闘曲を『ファイナルファンタジー』シリーズの楽曲に変更できるようになったのも、ファンにはうれしい新要素だ。対象の作品は下記の通り。 収録された戦闘曲 ・『ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ』 ・『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』 ・『ファイナルファンタジーVII リメイク』 ・『ファイナルファンタジーVII リバース』 ・『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』 ・『ファイナルファンタジーXVI』 戦闘曲は、メニューのコンフィグ画面からいつでも変更可能。ランダムも用意されており、いろいろな作品の戦闘曲を楽しみながら冒険するといったこともできる。ちなみに、オリジナル版の『ファイナルファンタジーVII』に夢中になった筆者は、その日の気分で『ファイナルファンタジーVII リメイク』と『ファイナルファンタジーVII リバース』に切り換えるのがお気に入りだ。 戦闘関連では、新たな難易度の“ノーマル”が追加されているのもポイント。オリジナル版と同様の難度となる“ハード”に対して、“ノーマル”はより遊びやすく調整されているとのこと。筆者はハードしかプレイしていないが、きちんとレベル上げをしたうえで、装備を整えてもボスに苦戦することがあった。 ひさしぶりに坂口氏と植松氏のRPGをプレイする方は、“ノーマル”で様子を見るのも手だ。難易度もコンフィグ画面でいつでも自由に切り換えられるので、気軽に選んで始めてほしい。 登場人物に声が吹き込まれたことでストーリーがますますドラマチックに 最後に、ストーリーとやり込み要素の魅力に触れたいと思う。 ストーリーは、序盤からなぜレオアは記憶喪失になったのか、レオアが目覚めた場所はどこなのか、キーナの出自にはどのようなヒミツが隠されているのかといった数々の謎が散りばめられており、続きが気になって冒険を進める原動力となった。 本作から新たに追加された、下記の豪華声優陣によるキャラクターのボイスも、ストーリーを大いに盛り上げてくれた。 主要キャラクターと担当声優 ・レオア役:内田雄馬さん ・キーナ役:諏訪彩花さん ・シャルル役:長谷川育美さん ・ジニクル役:小西克幸さん ・エズ役:伊瀬茉莉也さん ・チクッタ役:KENNさん ・ハクッタ役:岩井映美里さん ・バウリカ役:種崎敦美さん ・タン役:小林親弘さん ※掲載順不同。種崎敦美さんの崎はたつさき。 筆者が個人的にツボだったキャラクターは、ビブラの王女シャルル。彼女はいわゆる“ツンデレキャラ”なのだが、品行方正で民衆からも敬愛されており、応援したくなるタイプ。過去の悲しい出来事も、シャルルの味方をしたくなった大きな要因だ。レオアとの過去の因縁も気になる内容になっているので、王女キャラやツンデレキャラに目がない方は、ぜひ注目を! 作中には、シャルルがみずから制作したという写真集が登場。グッズ化希望! メインストーリーを進めながら、鍵つき宝箱を回収したり、多彩なクエストに挑んだりと、冒険の合間に楽しめるやり込み要素もボリューミーな本作。クエストでは個性が強烈すぎるマリガ、ドッティ、フォルトたち“シンデレラ三連星”が好み。会うたびに戦闘になるのだが、毎回ユニークなやり取りを見せてくれるので強く印象に残っている。 とくに、気の強いシャルルとマリガが、レオアを巡って女の戦いをくり広げるやり取りは必見。“シンデレラ三連星”関連のクエストを進める際は乞うご期待! また、ストーリーを進めると開放される、キャラクターの成長マップもやり込みがいがあると感じた。成長マップはレベルアップしたときに得られる“SP”を使ってさまざまな能力を取得し、キャラクターを成長させる育成要素。成長マップには複数のルートが用意されており、プレイヤーが理想のキャラクターに育てられる。 能力の取得に消費したSPは、解除モードでいつでも自由にキャンセルできる。SPを取り戻して取得をやり直せるので、気軽に試せるのはうれしい。 さらに、3層の難易度から構成された隠しダンジョンの“虚無の世界”や、すべてのレベルと獲得したアイテムを保持した状態でゲームを最初から再開できる“強くてニューゲーム”といったやり込み要素も収録。年末年始休暇に腰を据えてゲームが楽しみたい人にはうってつけのタイトルとなっている。 筆者のように遊んだことのない方はもちろん、数々の新要素が収録されているので、オリジナル版をクリアーした方もオススメ。声優陣の巧みな演技により、一度体験したストーリーやバトルも、新鮮な気持ちで楽しめると思う。精巧なジオラマが生み出す唯一無二の体験を、ぜひ堪能してほしい。