「こんにちは。自殺ですね?」 死後の手続きを行う“死役所”を舞台に繰り広げられるヒューマンドラマ【書評】
人は死んだ後、どこへ行くのだろう。おそらく多くの人が、それを考えたことがあるに違いない。天国? 地獄? いやいや。それを決めるため死後に人が最初に向かう場所――それこそが「死役所」。ここでの手続きを経て、死者はみなそれぞれの行き先へと向かう。そんな架空の場所・死役所を舞台としたヒューマンドラマが、あずみきしによる『死役所』(新潮社)だ。 【漫画】本編を読む
自殺、他殺、病死、事故死、寿命、死産…。人間にはさまざまな死の形があるが、どんな死者もすべて一様にここ死役所での手続きを経て、次の行き先が決まる。 無事成仏し天国へ向かう者もいれば、生前の行いから地獄へと落ちる者。そのどちらでもない真っ暗闇の「冥途の道」を永久に彷徨う者や、この死役所で職員として勤務することになる者まで、その運命はさまざまだ。 物語の主人公となるのは、そんな死役所の総合案内を担当する職員・シ村である。死役所には毎日、いろんな形で死んだ人々が大勢訪れる。彼らを適切な課へと案内し、不明なことがあれば相談に乗ったり対応したりする。それがシ村の仕事だ。
人の数だけ死があり、その死の数だけドラマがある。いじめを理由に命を絶った中学生。恩人を庇い事故死した若い女性。長年の闘病の末に息を引き取った男や、大勢の家族に見守られながら天寿を全うした老人、実の母親からの虐待で亡くなった少女…。 シ村をはじめとした死役所の職員たちと共に、そんな大勢の人々のヒューマンドラマをオムニバス形式で覗く本作。 その中で物語は、「なぜ死役所の職員たちはここで働いているのか」「なぜシ村は死役所の職員になったのか」といった謎にも迫っていく。
死役所を訪れる人々は、きちんと死んだ時の姿のままで現れる。絶妙に現実感のあるそんな設定も、「人間の死」をコンテンツとしてではなく真正面から真摯に描いていることを感じさせる一面だ。 だが主人公であるシ村や同じく役所で働く仲間たちの、ほどよくシニカルでコミカルなキャラ性が、どこか読者をクスッとさせてくれる緩和剤のような空気感を纏う。業務の中で死者と毎日接する彼らにとって、「死」は特段忌避するものではない。さらに言えば、まったくもって特別視するものでもない。ただの日常だ。