川幅いっぱいにかかる"三木のナイヤガラ“黒滝で涼を味わう
郊外の田園風景に現れる黒滝
兵庫県三木市は「酒米の王様」と称される山田錦の産地として名高い。田園風景に突如として現れるのが、美嚢(みのう)川にかかる黒滝である。高さ4㍍、幅30㍍。一枚岩を流れ落ち、雄滝と雌滝の2段に分かれる姿から、〝三木のナイアガラ〟と呼ばれる滝を見に行った。 「周辺には駐車場やトイレがないので、近くの観光施設『山田錦の郷(さと)』から歩くのがおすすめです」。そう話す「『黒滝』憩いの場つくりの会」代表の鷹尾滋基(たかおしげき)さんに案内してもらった。 田んぼの中を心地よい風が渡ってくる。このあたり一帯の凝灰岩(ぎょうかいがん)を含んだ粘土質の土壌が酒米作りに適しているという。粘土が溶け出しているため小川や用水路は濁っており、その水は黒滝にも流れる。 【写真】酒米をコロッケにしたKANAE CAFEの「山田錦のアランチーニ」
階段を下り、遊歩道を進むと水の音が響き、滝が見えてきた。色々な角度から見ようと、滝の端の岩に座って上からのぞきこんだり、滝の下の岩場に下りて滝つぼ近くに寄ってみたり。滝に近づくと、水の轟音(ごうおん)だけの世界に入り込める。川面を渡る風や水しぶきが心地よく、しばらく天然の涼しさを味わった。川の上流部や山の中にある滝と違い、市街地の近くで手軽に自然と親しめるのが魅力だ。 滝には「万八狸(まんぱちたぬき)とお万狐(まんきつね)」という民話が残る。いたずら好きのタヌキとキツネが化かし合いを演じ、村人や旅人を困らせたという。それでも、滝つぼの岩の上でタヌキが美しい娘に化けるシーンを想像すると、少しほほ笑ましい。最近は「滝を訪れたカップルは幸せになる」という説も流れているらしい。
近くのカフェや温泉でひと休み
「自然とのふれあいを通して、子どもたちにふるさとの名所を知ってほしい」と鷹尾さん。会のメンバーと子どもたちが滝の周辺の花壇で育てる花の美しさに心が和む。時とともに訪れる人が増え、思い思いに水辺の景色を楽しんでいた。 帰路、滝近くのKANAE CAFE(カナエカフェ)でひと休みした。米農家の納屋があった場所に2023年にオープン。地元産野菜や山田錦みそを使ったランチが人気だ。山田錦の郷にある温浴施設「吉川(よかわ)温泉よかたん」で汗を流すのもいい。山田錦の郷は25年春に「道の駅 よかわ」として生まれ変わる計画で、市や地域全体でさらに観光に力を入れるという。黒滝を散策した後の楽しみも増えそうだ。 文・写真/仲底まゆみ