2つの戦争の時代の世界 ―ウクライナ戦争とイスラエル・ガザ戦争
戦争はいつまで続くのか
ウクライナにおいても、中東においても、現段階で平和の見通しはたっていない。少なくとも、ロシアは米大統領選挙の結果としてトランプ政権が成立すれば、米国によるウクライナへの軍事支援が大幅に後退して、ロシアの占領地域が拡大できると考えているのだろう。同時に、民主党左派の支持層の多くの人々がパレスチナへの共感や支援を示しているなかで、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相はトランプ政権の成立がより有利な国際環境を生み出すことを期待していると思われる。つまり、プーチン大統領とネタニヤフ首相が、米大統領選挙を前にした現段階で、戦闘を停止するインセンティブは低いはずだ。米国の国内政治と、2つの戦争の行方は、大きく連動しているのだ。 バイデン大統領が選挙に勝利して2期目を迎えても、米議会でトランプ支持派の共和党議席が増えるとすれば、ますます政権運営は難しくなる。それによって、ウクライナやガザでの米国の明確な方針を示すことは困難になるはずだ。米国が強力なリーダーシップを示せない中、和平への見通しは立っていない。それは、1993年に米国のクリントン政権の努力もあり、イスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)の間で和平へ向けたオスロ合意が成立した時代とは、あまりに対照的である。米国の経済力と軍事力は依然として世界で圧倒的でありながらも、そのパワーを用いて戦争を終結させるための米国民の意志は大きく後退した。 そのような米国の指導力の低下を示すかのように、現在共和党が多数の議席を占める議会下院では、ウクライナ支援に関する緊急予算案を採決する見通しが立っていない。それを一因として、必要な支援が届かないウクライナ軍は戦場で苦境に立たされている。弾薬の不足などが理由となり苦戦を強いられた結果、2月17日にウクライナ軍はアウディーイウカから撤退を決断した。訪日していたウクライナのシュミハリ首相は、「残念ながら今はロシア軍が戦場で制空権を握っている」と述べて、「ロシア軍はウクライナの10倍の砲撃を行っている」と語った。しばらくはドローンなどを用いて、防御態勢を固めることが優先となろう。 2月25日には、戦争勃発から2年が経過したことを受けて、ゼレンスキー大統領はロシアによる全面侵攻によって、「3万1000人のウクライナ兵が殺害された」ことを明らかにした。他方で、米国防省は、ロシアもまた31万人の死傷者が出ていると分析した。米国防省はまた、ロシアのこれまでの戦費が約31兆円に上っているとも発表した。ウクライナにとってもロシアにとっても、過去2年間の戦争があまりにも巨大な犠牲を伴うものとなっている。それにもかかわらず、平和の見通しは立っていない。 ウクライナは夏以降にF16戦闘機が配備されて、実戦で運用可能になる見通しだ。それによって、今年の夏から来年にかけて、現在の困難な情勢をもう一度反転攻勢へと導きたい様子である。だが、欧州外交問題評議会(ECFR)が今年1月に、欧州連合(EU)加盟の12カ国で行った調査の結果では、「ウクライナが勝利しそうだ」と答えたのは10パーセントに過ぎなかった。EUでは多くの人々が、ウクライナへの支援を続ける必要性を認識しながらも、同時にその勝利が容易ではないことを深く理解しているのだろう。