宇宙空間でも“死なない”生物 乾燥状態から水で蘇生
宇宙空間は真空で極端な低温と高温、強烈な太陽光や放射線などが直射する極限環境だ。そんな場所でも“死なない”生物が、地球上に生息している。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の宇宙飛行士、若田光一さん(50)は2月19日、そのような驚異的な生物の一つである「ネムリユスリカ」の幼虫を“水”で戻して、生き返る様子を実験観察した。 ネムリユスリカは、アフリカのナイジェリアやマラウイなどの半乾燥地帯にある岩盤地域に生息する昆虫で、蚊の仲間だが血は吸わない。普通のユスリカは日本にもいて、オスが春から夏にかけて“蚊柱”を作る。ネムリユスリカの幼虫は、完全な乾燥状態となっても、(つまり、カラカラに“干からびて”も)水で戻すと元通りに蘇生(そせい)するのだ。
ネムリユスリカの“乾燥幼虫”
ネムリユスリカの幼虫(体長7~10ミリ)は、アフリカでの4か月間の雨季を岩盤の窪みの水たまりで暮らし、8か月間の乾季に水が干上がると自分もカラカラに乾燥する。そして、そのまま雨季を待って水が溜まると、吸水して再び発育し出す。この現象は1958年に英国人によって発見された。 乾燥状態となり、生命維持に必要な体の働き「代謝」を停止させながらも生き続けること、あるいは能力を「クリプトビオシス」(“隠された生命”の意味)と言う。この現象は今から300年以上前の1702年に、顕微鏡を作った英国のレーベンフックが雨どいに溜まった土の中にいる輪形動物のワムシから見つけていた。近年は、線虫や緩歩動物のクマムシも、環境の変化によって自らクリプトビオシスを行うことが分かっているが、いずれも体長が1ミリ以下と小さく、ネムリユスリカの幼虫がクリプトビオシスを行う最も高等で大型の生物だという。
高低温、強烈な放射線にも耐える
農業生物資源研究所によると、ネムリユスリカの“乾燥幼虫”を乾燥剤入り低湿度容器(デシケーター)で17年間保管した後に、水を入れると蘇生したという記録がある。実際の実験では、106度で3時間、あるいは200度で5分間処理しても蘇生した個体があった。低温への耐性も強く、零下270度で5分間、零下190度で77時間処理しても生き返り、その後の発育にも影響がなかった。 さらに一般の生物実験で組織の固定や脱水に使う100%エタノールに浸すと、乾燥していないネムリユスリカの幼虫は1分以内に死ぬが、“乾燥幼虫”の場合は168時間後でも死なずに、水で蘇生して、一部は成虫にもなった。また放射線にも強く、昆虫類は200~2000グレイの吸収線量で死ぬが、ネムリユスリカの“乾燥幼虫”は7000グレイを浴びても死ななかったという。