米国大統領選挙と反ESGの広がり
テキサス州などで反ESG法
2024年11月の米大統領選の争点の一つとなっているのが、気候変動問題への対応だ。仮にトランプ前大統領が再選されれば、政府の気候変動対策は大きく転換され、燃費や排ガス基準などのエネルギー規制が撤廃される一方、電気自動車とクリーンエネルギーに対する優遇措置が廃止される可能性が考えられる。さらに、世界の平均気温を産業革命前に比べて2度未満に抑えるというパリ協定からも再び離脱するとみられる。 そうしたもとでは、テキサス州のように反ESG(環境・社会・企業統治)政策の勢いが増し、ESGに資金を投じる投資家への逆風が、米国内で一段と強まる可能性があるだろう。 気候変動対策に懐疑的な共和党の影響力が強い州では、投資家のESG投資に対する規制の動きが近年強まってきた。その代表がテキサス州だ。テキサス州議会は2021年に、州の年金基金や他の機関が化石燃料に敵対的とみなされる企業やファンドに投資することを、差別的として禁じる法案を可決した。また同州は2022年に、ESGを過度に重視して化石燃料企業を排除している投資会社のリスト、いわゆるブラックリストを作成した。 テキサス州の石油掘削業者らが、新型コロナウイルス禍で資金繰りに困ってJPモルガン・チェースなどの銀行に追加融資を頼んだが、「脱炭素移行の推進」を理由に銀行が新規融資を拒否したことが、一連の規制強化の引き金となった。
ESG投資は廃れない
フロリダ州でも2023年5月に、ESGの考えを投資に組み込まないことを求める「反ESG法」が成立した。フロリダ州の知事は反ESGの急先鋒であり、共和党の大統領候補戦から撤退したロン・デサンティス氏だ。これらの動きを受けて、他の州でもESG投資を規制する動きが出ている。 こうした動きから、一部の資産運用会社はESG投資に慎重になっている。モーニングスターによると、投資家は2023年の1~9月にESGファンドから140億ドル(約2兆200億円)余りの資金を引き揚げたという。 しかし、逆の動きもある。オクラホマ州では、石油やガス分野への融資に慎重な大手金融機関への投資を引き揚げようとする動きを、州の職員組合に関連する組織が反対している。ニューヨーク市では、化石燃料企業への投資から撤退を決めた3つの年金基金が訴えを起こされた。このように、ESGを巡って、米国は分断化されている。 仮にトランプ氏が再選されても、米国でESG投資が廃れてしまう訳ではないだろう。ESG投資に否定的な者も、環境問題の改善などへの企業の取り組みに反対しているとは限らず、石油やガス分野に対して差別的な投融資を行う金融機関の姿勢を批判している面が強いのではないか。