「海の沈黙」で映画初出演の菅野恵 倉本聰から「あざみっていう役、やる気はあるか?」
「海の沈黙」(若松節朗監督)は、フジテレビ系の名作ドラマ「北の国から」などの脚本家、倉本聰(89)が35年ぶりに映画を手掛けた話題作だ。本木雅弘(58)、中井貴一(63)らそうそうたる顔ぶれの出演陣の中で異彩を放つのが菅野恵(30)。映画初出演ながら堂々の演技を披露している。実は彼女、倉本の〝秘蔵っ子〟と呼ばれる新人なのだ。 構想60年。昭和35年に実際にあった古美術品のつぼをめぐる贋作事件に着想を得た脚本だという。 世界的な画家、田村修三(石坂浩二)の贋作が見つかる。それは、本物を上回る美を備えていた。果たして贋作であることが理由で、その圧倒的な美は否定されるべきなのか? やがて贋作の犯人として、天才と呼ばれながら世間から消えた画家、津山竜次(本木)の存在が浮かび上がる。 津山のかつての恋人で今は田村の妻に小泉今日子(58)、津山に仕える謎の男に中井、ほかに仲村トオル(59)、清水美砂(54)、佐野史郎(69)らが出演。 ベテラン勢に交じって映画初出演を果たした菅野は、津山と交流のあるバーテンダー、あざみを演じた。 倉本が主宰する演劇集団「富良野GROUP」の舞台作品に多数出演し、倉本の秘蔵っ子と呼ばれる。 倉本とは定期的に電話で連絡を取り合う。ある日「映画の脚本を書いている。あざみっていう役があるが、やる気はあるか?」と問われた。「ぜひ」と答え、出演が決まった。 「本木さんや中井さんの胸を借りるつもりでやりなさい」とアドバイスされ、実際に「本木さんらと向き合ったときに感じることを大切にしよう」とあざみ像は、あらかじめ固めずに撮影に臨んだ。肝がすわっている。 しかし-。「随分、萎縮していたな」。撮り終わった映像を見た〝師匠〟の第一声は、これだった。 「普段から私の芝居を見ている先生にすれば、期待していたところまでには足りていなかったのでしょう」 電話の向こうから次々に駄目出しをされたが、「はい、はい、すいません」と答えたのだと笑う。師弟の関係がほほえましい。 「舞台演出をする際の先生は、とても厳しい。作品に向けるエネルギーが誰よりも強い。だから、先生と一緒に作品を作るのは楽しい」