【アメリカから見たTPP(6)】TPPで日本の農業をどうする?安倍首相の戦略
「しかしTPPにより、農業は、輸出利益や自動車産業、そしてより低価格の商品という消費者の利益、ひいては、より大きな流通システムや他領域における日本の国家的な経済利益とトレードオフになります。農業の自由化はこれらの複数の分野を組み合わせたときに初めて起こるため、TPPは他のどの方法よりも日本の農業の自由化を押し進めることになるでしょう。TPPによって日本は、『世界をリードする輸出国』という利益と、『農業の保護』という利益とを天秤にかけることを迫られるからです」
「TPPは損失ではない」というストーリー
デイビス教授は日本の農業が置かれた厳しい状況の中で、安倍首相が日本の農業を輸出産業として育成しようとしている戦略が「興味深い」と話す。「食品産業や特別な農産物では、日本がニッチな(狭い)輸出市場を持っている分野があります。安倍首相は国内農業の効率化を進めることで、TPPが農業にとって単なる損失ではないというストーリーを演出しようとしています」 日本の輸出は近年の通貨下落の後改善しており、アメリカの輸入関税が減少し、TPP参加国が環境や労働に関する規制水準を統一すれば、日本は利益を享受するだろう。日本やアメリカ、オーストラリア、ニュージューランドは、途上国がその基準を引き上げることで利益を得るかもしれない。 TPPは、2大経済大国である日米両国を含む巨大国際経済協定だが、世界第2の経済大国、中国はメンバーに含まれていない。TPPは「中国対策」なのだろうか。 (次回に続く) ◇クリスティーナ・デイビス教授 米プリンストン大政治学部、ウッドロー・ウィルソン国際公共政策大学院兼任教授。国際関係論と比較政治学の研究を行い、貿易政策が専門。日本、東アジア、EU、国際機関の政策や外交について研究している。「 Food Fights Over Free Trade: How International Institutions Promote Agricultural Trade Liberalization」「Why Adjudicate? Enforcing Trade Rules in the WTO」(大平正芳記念賞)などの著書がある。 (聞き手・文:Matthew Kolasa、翻訳・構成:中野宏一/THE EAST TIMES)