【アメリカから見たTPP(6)】TPPで日本の農業をどうする?安倍首相の戦略
米プリンストン大で行われたクリスティーナ・デイビス教授へのインタビュー(Matthew Kolasa撮影)
昨年10月に交渉合意した環太平洋連携協定(TPP)は、数年間に渡る困難な交渉を必要とし、参加国間の利益バランスを取る必要があった。交渉参加国は国益だけではなく、各国の国内政治や影響力のある産業団体まで考慮しなくてはならかった。この協定は各国議会が批准しなければ発効しないが、安倍首相率いる日本政府は、どのようにして国会を説得するのだろうか。米プリンストン大学のウッドロー・ウィルソン国際公共政策大学院教授で、日米関係と国際貿易の専門家のクリスティーナ・デイビス教授に聞いた。
「日本の農業にダメージ」
デイビス教授は「日本はアメリカと同様、経済的利益を得ることを最重要課題としていました。安倍首相のアベノミクスもまた、構造改革を目指していることが知られています」と、TPPがアベノミクスの「第3の矢」に関係することを指摘する。一方で、「日本は、TPP交渉の経済面で、全て勝利したわけではありません。日本にも、ダメージを受ける産業があります。農業団体はこの合意に強硬に反対しており、これに反対するロビイングを展開するでしょう」と予測する。 安倍首相の支持基盤は農家や地方の人々を含んでおり、TPPが日本の農業にもたらす変化に失望している。安倍首相は、TPPを国会で通過させることができるのか。 デイビス教授は「確かに、日本の国会はアメリカの議会より少しは運営しやすく、与党が議会の大多数の議席を握っているという利点もあり、上下院で『ねじれ』のある議会と対峙しなくてはならないオバマ大統領とは異なる」としながらも、「安倍首相は、自民党にとって非常に重要な選挙区で、有権者と対立することになります。その選挙区の有権者は反対運動を行うでしょう」と、国内での批准への難しさを指摘する。
「輸出大国」と「農業の保護」のトレードオフ
デイビス教授はTPPが成立すれば、他のどの方法よりも日本の農業の自由化が進むだろうと予想する。 「日本の農業分野について知られているのは、もし農業だけに注目したなら、農家が強すぎてどの政治家も合意を導いたり改革することができないということです。自民党から共産党まで全ての政党が農家を支持しているので、もし農業だけを見たなら、どの政党も農家が打撃を受ける政策を支持しないでしょう」