戦闘機パイロットの養成 国内でできなくなる!? 新型練習機に必須な要件とは?
実用化からもうすぐ40年のカワサキ製T-4
2024年3月、全国紙が報じたところによると、日米両政府は航空自衛隊が保有する練習機T-4の後継機となる次期練習機を共同開発する方針で調整を進めていることがわかりました。 【プロペラ駆動だけど新型です】これがT-4よりも高性能なPC-21練習機です(写真) T-4は、川崎重工が1980年代に開発した純国産のジェット練習機で、おもな役割は、航空自衛隊の戦闘機パイロットになるものに対する訓練飛行プログラム「基本操縦課程(約54週間)」「戦闘機操縦基礎課程(約8週間)」を実施することです。 ただ、T-4は実用化からまもなく40年。時期的に機体の多くが耐用命数を迎えつつあることや、今後、航空自衛隊の主力戦闘機になるF-35のパイロットを育成するためにはT-4では搭載システムや性能に大きなギャップが生じることから、次世代を担える新たな練習機を航空自衛隊は必要としていました。 それでは、次期練習機は既存のT-4からどのように進化した機体となるのでしょうか。現在のところ日米共同開発ということ以外、具体的な計画案は明らかになっていませんが、おそらくは「LIFT」と呼ばれる種別の練習機となるのではないかと考えられます。 LIFTとは、「戦闘機へ導くための練習機」を意味する英語「Lead-In Fighter Trainer」の頭文字をつないだ略称です。まず、LIFTには戦闘機に準ずるドッグファイトを含む空中戦闘機動(ACM)も可能な高い飛行性能が要求されます。
次世代練習機は「LIFT」じゃなきゃ
飛行性能の点に関しては、現行のT-4でも十分にLIFTの要件を満たしているものの、それでもT-4がLIFTたり得ないのは、スクランブル発進やドッグファイトの訓練はできても、より実戦的なシステムを装備していない点にあります。 具体的にはレーダーやネットワーク、ミサイル、誘導爆弾などを使用した、現代的な空中戦を仮想的に実行(シミュレート)する能力です。このような戦闘機に準ずる機能を持っていることがLIFTの最大の特徴でしょう。 2024年現在、航空自衛隊ではT-4における飛行訓練完了後、現用戦闘機の複座型(2人乗り仕様)であるF-15DJ「イーグル」もしくはF-2Bを使用した訓練を行うことが必須となっています。 この訓練は、「戦闘機操縦課程(35~37週間)」と呼ばれるもので、その課程を修了した後、ようやく第一線運用を行っている飛行隊に配属されますが、これらの機種は性能的にはF-15JやF-2Aと同じで、言うなれば戦闘機そのものです。すなわち、調達コストも飛行時間あたりの運用コストも高価な機体を練習機として使っているのです。 それが、LIFTならば戦闘機の半額以下のコストで、これまでF-15DJやF-2で行っていたのと同じ高レベルな訓練を実施できます。しかも、それ以前の訓練段階の機体から機種転換せず引き続き行うことが可能です。 また、F-35には練習機として用いることが可能な複座型が存在しないため、F-35では「戦闘機操縦課程」そのものが訓練不可能だという事情もあります。現在はイタリアの「インターナショナルフライトトレーニングスクール(IFTS)」に訓練生を派遣し、そこでレオナルド社製M-346「マスター」というLIFTを使わせてもらうことで、F-35パイロット候補生の訓練を実施しています。