「食の欧米化が日本人の生活習慣病を増やした」のは本当か? この謎を解く沖縄の「平均寿命」と「脂質摂取比率」の意外な関係
沖縄クライシス
「沖縄クライシス」という概念をご存じでしょうか。 日本に復帰した当初、もっとも平均寿命の長かった沖縄が、20世紀末から21世紀にかけて平均寿命の順位を(とくに男性で)落としている現象を指しています。 そして、多くの医療従事者はその背景として、沖縄にはもっとも米国の(食)文化が入っており、脂質摂取が多いから順位を落としているのだと推測しています。 しかし調べてみると、日本に復帰した当初から沖縄の脂質摂取比率は高く、平均寿命の順位の低下とともに脂質摂取比率は低下し、逆に炭水化物摂取比率が上昇していました。このデータは論文化していませんが、2015年の日本糖尿病学会年次学術集会で発表しました。脂質摂取比率の低下とともに沖縄県の平均寿命の順位は低下しているのです。 和食に誇りをもつのはいいですし、私自身もその食文化を誇りに思っています。しかし、医療従事者が科学的検証を怠ったままで事実に目を向けないとすれば、医学の未来はありません。 世界的に人の交流や貨物の流通が増え、食文化も含めたいろいろな分野でのグローバル化が進んでいます。欧米で和食屋、中華料理屋が増えることも、食の東洋化ではなく、グローバル化の一環でしょう。 世界中のおいしいものを自国にいながら享受できるようになったことはとてもよろこばしいことです。各国の食文化を優劣で比較しようとするのではなく、どこの国のどんな食文化においても対応できる食事法で健康になることを考えるべきです。ロカボはそんな食事法の1つです。 なお、和食には塩分が多く、脂質に乏しいという欠点があります。私は、それが高血圧症や脳出血にぜい弱で、肥満もないのに糖尿病を発症する日本人が多い「一因」と言えるのではないか、そう思っています。 欠点も知っていれば、食べ方で気をつけられますから、正しく知ることは大切です。 ぜひ「食の欧米化=悪」といった安易な言葉に縛られず、大いに世界の食文化を楽しみながら健康を増進していきましょう。 文/山田悟 写真/shutterstock ---------- 山田悟(やまだ さとる) 医師。医学博士。北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長。 1994年慶應義塾大学医学部卒業。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、2009年米医学雑誌に掲載された「脂質をとる食事ほど、逆に血中中性脂肪が下がりやすくなる」という論文に出会い衝撃を受ける。現在、日本における糖質制限のトップドクターとして患者の生活の質を高める糖質制限食を積極的に糖尿病治療へ取り入れている。著書に『糖質制限の真実』(幻冬舎新書)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など。「ロカボ」という言葉の生みの親でもある。 ----------