やっぱり火星に水はあった! でも砂漠のように乾いた星のどこに?
■ うわっ、大気の流出量少なすぎ・・・? 火星の大気に何が起きたのかを調べる目的で、火星周回機「MAVEN(メイヴェン)」が2013年に打ち上げられました。MAVENは「Mars Atmospheric and Volatile EvolutioN」の略で、直訳すると「火星大気・揮発性物質変遷調査機」というところでしょうか。MAVENは今日も元気に火星を周回中です。 (ちなみに「MAVEN(メイヴェン)」のように、英文の頭文字をつなげてひとつの単語として発音する語を「頭字語(acronym)」といい、「USA」のように文字をひとつずつ発音する語は「頭文字語(initialism)」といいます。MAVENも後述のInSightもずいぶん凝った頭字語で、おそらく言葉遊びの好きな中の人が考えたのだろうと思わせます。) MAVENは質量分析器や太陽風の分析装置を備え、火星から宇宙空間へ流出する原子の量や、太陽風による影響を測定することができます。これで太陽からの高速粒子が火星大気をぶっ壊す様子がばっちり観察できるはず、と期待されました。 ところが実際に測定してみたところ、明らかになったのは、火星から宇宙空間への大気や水の流出量は意外に少ないということだったのです。 これは一体どうしたことでしょうか。太陽風に大気分子を吹き飛ばす力がないとすると、太古の火星に満ちていた水と濃い大気は、一体どういう機構で消失したのでしょう。
■ 火星着陸機インサイトの発見 火星の古代大気の謎は、水素で説明できるという説があります。古代火星の大気には水素が多く含まれていたという説です。水素原子は軽いので、火星が若いうちにすみやかに宇宙空間へ逃げ去り、現在はほとんど残っていないとすると、MAVENの観測結果とつじつまが合います。また水素の温室効果は大きいので、水が液体として存在できた古代の温暖気候も説明できます。 この仮説が正しいとすると、大気の行方は説明がつきますが、それでは海の水はどこへ行ったのでしょうか。 宇宙に散ったのでなければ地下に潜ったのでは、というのが、最近期待が高まっている説です。かつて火星の地表を覆った莫大な水、川となって山を押し流し、土砂で谷を埋め、氾濫しては地形に傷跡を残した水は、現在火星の地下に潜って眠っているという説です。 この説を支持する証拠が、火星着陸機「インサイト(InSight)」の発見です。 InSightは2018年に打ち上げられて、火星のエリシウム平原に着陸し、2022年の運用終了までそこに座して、火星の内部構造を調べました。InSightは「Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport」の略で、直訳すると「地震計測・測地・熱流量測定地中探査機」というところでしょうか。本当によくこういうのを思いつくものです。 InSightは3台の計測装置を火星に持ち込みました。今回取り上げる成果は、地震や隕石落下による地面の振動を計測する「SEIS(サイス)」によるものです。他の観測装置は、火星と地球の距離を誤差たった数cmで超精密に測定する「RISE(ライズ)」と、熱量を測定する「HP^3」です。 (HP^3のセンサー部は「もぐら」と呼ばれる杭形の装置で、これは火星の地面に穴を掘って5 mの深さまで潜り込み、温度変化などを測るというユニークな計画でした。しかしどういうわけかInSightの着陸地点の砂は極度にサラサラしていて、もぐらはうまく潜り込むことができませんでした。HP^3のチームは、なんとかもぐらを潜らせようと、掘る位置を変えたりInSightのアームで押し込んだり、約2年にわたってあれこれ試しましたが、結局もぐらは数cm以上掘り進めず、もぐらの運用は断念されました。探査機や観測装置が期待どおり動かないことはしばしばあるのですが、これほどやきもきさせられた装置は珍しいでしょう。) InSightの地震計SEISは火星の地震や隕石衝突の衝撃を記録し、それによって火星の地下構造が調べられました。地震波が地下を伝わる際、地質によって地震波の速度などが変わります。 そしてInSightの発見は、エリシウム平原の地下10 kmに、地震波が速くなる層が存在するというものでした。