【映画大賞】最高齢91歳で主演女優賞 草笛光子が本音で明かした74年の女優人生/ロング版
第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)の各賞が、先月27日の配信番組および28日付の紙面で発表されました。動画や紙面でお届けできなかった受賞者、受賞作関係者のインタビューでの喜びの声を、あらためてお届けします。 ◇ ◇ ◇ 主演映画「九十歳。何がめでたい」で毒舌小説家をチャーミングに演じた草笛光子(91)が、史上最高齢で日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞の主演女優賞に輝いた。 ユーモラスな語り、持ち前の明るさは撮影現場に限らず、取材中もポッとその場を温かくする。 作品中では、モデルとなった作家・佐藤愛子さん(101)の、口調はきついが、憎めない人柄を浮き上がらせた。誰にもまねのできない独特の空気感だ。質問にもユーモアたっぷりに答えてくれた。 -「史上最高齢」の受賞になりました。 「そうですね。『一番年上です』って言われているようで、あまりいい気はしませんね(笑い)。どの撮影現場に行っても最高齢ですから、同じような年の人がいないのはさみしいですよ。女優は何歳になったって少女を演じることができますから、年齢なんてただの数字だと思っています。ただ、決して順風満帆ではなかった女優人生を支えてくださった方々がたくさんいらして、年齢を重ねるにつれ人の手を借りることも多くなりましたし、そういった皆さまのおかげで最高齢で賞がいただけた。ありがたいです」 -この作品が映画初主演というのも驚きましたが、佐藤愛子さんという実在の作家を演じるにあたってどんなことを思いましたか。 「最初にお話を頂いたときは、佐藤愛子さんの著書には共感するところが多く親近感を抱いていたので、うれしかったのですが、いざ映画化が決まったら『さて、これは大変だ』と。私は佐藤先生のように背筋の伸びた、きちんとした人間ではないし、エッセーですからそれを物語にして映像にするのは難しいでしょう。書籍で感じたあの面白いテンポを表現するのにやりすぎてはいけないし、間延びしてもダメ。いろいろと考えましたね。結果、演じてみたら周りからは『いい意味で、いつもの草笛さんと同じですね』と言われました。佐藤先生からは映画公開時にお手紙を頂き、『私を演じるのはたいへんだったでしょう』とのお言葉も頂きました。でも、いざ撮影に入ったら、実はそうでもなかったんです。演じてみたら、言いたいことをきちんと言うところとか、似ているところが多かったんです」 -2カ月の撮影期間を無事「完走」しました。 「私の年齢を考慮してスケジュールを組んでくださったから。私の方は自分のことで精いっぱい。何をするにもおっくうとの戦いでおっくうが勝つんですから、撮影所に行くだけで大変なことでした。目の前のことをなんとかするのに追われて気が付いたら終わっていましたね。もう1年たつので忘れてしまったことも多いけれども、たくさんコスプレをさせられましたね。幼稚園生やコギャルや落ち武者、マリ-アントワネットまで。私はメークを自分でしているので、その都度写真を見ながらメークを変えるのは大変でした」 -女優生活は74年目となりました。どんなことを思い出しますか。 「そんなになりましたか。もう何周年だとか考えてはいなかったので驚きです。それだけの年月がありますからうれしいことも悲しいこともたくさんありました。『一番』はつけられませんが、舞台ではやはり『ラ・マンチャの男』かしら。ブロードウェイで初めて見た時の衝撃は今でも忘れられません。これを日本でやりたいと思ったことで、私の女優人生がまた動き出したきっかけの作品でした。映画では市川崑監督との出会いがうれしかったですね。横溝正史シリーズに出演させていただきましたが、映画での役作りの面白さを教えてくれた監督でした。悲しかったことももちろんあります、私は母がマネジャーだったのですが、今とは時代も違いますし、デビュー間もない頃は理不尽なこともたくさんありました。2人で泣いたこともあります。そんな時、母が『光子ちゃん、私たちはきれいに生きましょうね』と言ったんです。誰かを押しのけたり、汚いことをしないようにしましょうと。それからは、その言葉は私と母の合言葉になり、今でも私の指針になっています」 潔く生きた74年。それはそのまま女優・草笛光子のイメージに重なっている。【相原斎】 ◆草笛光子(くさぶえ・みつこ)1933年(昭8)生まれ、神奈川県出身。50年松竹歌劇団に入団。58年、テレビ草創期の音楽バラエティー「光子の窓」の司会に。60年に作曲家の芥川也寸志氏と結婚も2年で離婚。テレビドラマでは石井ふく子プロデュース、橋田寿賀子脚本作品に多く出演。ミュージカル界のパイオニアであり、「私はシャーリー・ヴァレンタイン」などで芸術選奨を3度受賞。 ◆九十歳。何がめでたい 断筆宣言をし、鬱々(うつうつ)と日々を過ごす、90歳の作家・佐藤愛子(草笛)。ある日、中年のさえない編集者・吉川真也(唐沢寿明)が執筆依頼を持ち込む。エッセーは大反響を呼び、愛子の人生は90歳にして大きく変わり始める。