“911”への情熱が結実! もとロックミュージシャンが手掛けるポルシェ911レストア「シンガービークルデザイン」
■964型エンジンにこだわるわけ
最初に一般へのお披露目が行われたのは09年夏に米国・西海岸で開催されたモンタレーカーウィーク。ポルシェ911リイマジンド・バイ・シンガーと名付けられたモデルです。リイマジンドとはディキンスン氏が好んで使う言葉で、自分の思いを込めて仕上げた911、といった意味のようです。 たとえば、東京のトランクホテルに持ち込まれた1台は「DLSターボ」。ダイナミクス&ライトウェイティング・スタディと名づけられたモデルで、F1で知られるウイリアムズビークルデザインの協力も得ているシンガーだけに、エンジンのヘッドを4バルブ化するとともにターボチャージャーを大型化。サスペンションシステムは大きく変更されています。 炭素樹脂で作られたボディもDLSターボの特徴。オリジナルのボディに外皮をもう1枚被せたようなデザインは、1970年代なかばにレースで大活躍した911ベースのレースカー「934」と「935」の再解釈なんだそうです。ボディは、2つ用意されていて、ストリート用と、さらにスポイラーが大きくなったレース用を、付け替えることが可能なのだとか。 「964型にこだわるのは、バランスがとてもよく出来たモデルだからです」とはディキンスン氏の説明。でも、空冷エンジンのポルシェといえば、901型、930型、993型と、ほかにもいろいろ。「燃料噴射にもこだわります(気化器のエンジンは扱わない)」とディキンスン氏は言いますが、ということは、このさき、964型以外のベースが出てくるかもしれません。 ディキンスン氏が強調するのは「シンガーはメーカーではないので、シンガー・ポルシェとは呼んでいただきたくない」ということ。ポルシェ本社とのビジネス関係はまったくないと語ります。
■日本語サイトもあります
シンガービークルデザインにレストアとリアマジネーションを依頼したいばあいは、ベースになるドナーカーを渡します。先方の係に、自分が望むかたちを伝え、シンガーはそれに応じて、エンジンやサスペンションシステムのほか、内外装も仕上げてくれます。 日本語のサイトも開設されているので、興味あるひとはそこからコンタクトしてほしいとのこと。同時に日本でのパートナーになったコーンズモーターズが、シッピングや日本でのメインテナンスの面倒をみてくれるそうです。ドナーカー探しも手伝ってくれるそうです。 5月にもちこまれた2台は、930型のターボを意識した「ターボスタディ」(110万ドル)と、先に触れた「DLSターボ」(270万ドル)。高価です。でもなにより、オーダーできるか、というのが先決すべき問題です。911への熱い思いが結実したビジネスが、こんなふうに世界中のクルマ好きの注目を集めるまでになっているというのは、なんともすごいことであります。
<文/小川フミオ>