部下や子どもを上手に叱るには?プロが語る、相手に改善を促すための「伝え方」
「伝えたいことがうまく伝わらない」を解決するPREP方式
PREP方式とは Point(ポイント)、Reason(理由)、Example(例)、Point(ポイント)の順番で伝えること。頭文字を取ってPREPと呼ばれています。 先ほどの状況でこのPREP方式を使って伝えてみると… 1, ポイントを伝える 「業務報告を毎日してほしいんです」 2, 理由を伝える 「なぜかというと、それによりマイナスなことが起こりえるからです。実際、昨日報告がなかったことで重複の作業をしてしまった人がいます」 3, 具体例を伝える 「重複の作業で3時間使ってしまい、別の作業の納期を遅らせてクライアントに迷惑をかけてしまいました。これは業務進捗をしていれば避けられたことですよね」 4, 再度ポイントを伝える 「だから業務報告をしてほしいんです」 感情をはぶいて体系的に語っているので、相手の頭にも入りやすく、なぜ自分がしたことがダメだったのかの理由が具体的に理解できます。 このように文章の組み立て方を考えるだけで、相手への伝わり方が大きく変わってきます。 では仕事の場面だけでなく、夫や子ども、友達に対して言いたいことを伝えるときはどうでしょう。近しい人の否定的な態度に、ついつい感情的に伝えてしまう……という方も多いのではないでしょうか。 PREP方式だけでも効果はありますが、それに加えて別の手法もご紹介します。それが「積極的傾聴」です。 「積極的傾聴」について、私の実際の体験談とともにお伝えしていきますね。
グローバルリーダーにも教えている「積極的傾聴」
私には中学生の娘がいます。 習い事のフィギュアスケートに、お友達とのFaceTime、そしてお勉強と忙しい娘。自分からすすんで勉強するよう、いかにして娘のモチベーションを高めるのかということが課題でした。 そんな娘につい「今までも何万回も言ってるよね。大事だってのもわかってるよね。それなのになんでやらないの?」と言ってしまったことがあります。 まさに先ほどのNG例。ついつい感情的になって声を荒らげてしまいました。 そんな娘に、グローバル企業のリーダーたちのコミュニケーション研修でファシリテーションの際に最も重要だと伝えている「積極的傾聴」を試してみました。 「積極的傾聴」とは、相手に共感を示しながら「質問」を投げかけることで相手が話す内容を更に広げたり、深めたり、時には先に進めてあげたりすることで、相手に「気づき」を与える、という手法です。やり方は読んで字のごとく、相手が言っていることに耳を傾け、理解し、しっかりとその真意を聴き取る、ということ。 「積極的傾聴」はただ話を聞けば良い、というものではありません。 カギとなるのはこちらの2点です。 ---------- 1点目:気づきを与えること 最も気づきが得られるのは、普段から考えている内在化した質問の近くにあるが、盲点のようになっていて、そのような観点からは考えたことのない、というような質問です。相手が子どもであっても、いつも言われていることを問われたら「またか」と反抗的な反応しか返ってこないはずです。一方で、全く接点がないようなことを問われたら、「知らない」「自分には関係ない」とスルーされてしまう。いかにその間の「気づきを与える質問か」がカギです。 ---------- ---------- 2点目:質問をする前に「安全でオープンな環境をつくってあげる」こと せっかく良い質問をしても、「こんな風に答えたらまたお母さんに怒られるんじゃないか」と警戒してしまっては、気づきにつなげることはできません。 ---------- この2点を踏まえて、実際に娘との会話を見ていきましょう。 私 宿題未提出だったね。どうした? 娘 この宿題があったって知らなかった (ここで普段なら私は、「知らなかったってどういうこと? ちゃんと確認しなさい(怒)」となる……が、ここはガマン! ) 私 知らなかっんだね。(承認) 私 みんなも知らなかったの? (自分自身から周りのクラスメートにフォーカスをシフトする質問) 娘 ううん……。 (この時点で、先生のせいなどではなく、自分が確認しなかっただけだ、と認識) 私 みんなはどうやって宿題があるって知ってたの? (解決方法に一歩近づける質問) 娘 学校のアプリ見たら書いてあった。 (ここを確認すればよいだけ、とう解決方法が簡単に出た) 娘 でも先生は授業では言わなかった。 (が、やはり自己防衛に走る) (ここで普通なら私は、「あなたが聞いてなかっただけなんじゃないの? ! (怒)」となるが、更にガマン!! ) 私 そっか先生は言わなかったんだね。(受け止めた) 私 でもアプリには書いてあったってことは、先生は、アプリにも書いてあることをわざわざ言ったら、2度も同じこと言うみたいな感じになるようね。知ってることをもう一回言われたら、どう感じる? (考えを深め、自分事として考えてもらう質問) 娘 やだ。 私 だよね。(受け止めた) 私 じゃあ(娘の名前)は今晩からはどうする? (行動につなげる質問) 娘 アプリ見る 私 いいね! (承認) 私 じゃあ、アプリを見るのを忘れないようにするにはどうしたらいいと思う? (視点を横に広げ、オプションを考えさせ、自分の決定したことに責任を持たせる質問) 娘 ……うーん……携帯にアラートつける。 私 携帯にアラート! いいじゃない。(承認) じゃあ今やっとこう! (行動につなげる) 娘(早速携帯のアラートを設定) このように、「積極的傾聴」をすることで、相手に気づきを促し、伝えたいことを伝えることができます。 PREP方式は、自分の意思を相手に明確に、かつ、自分事として捉えてもらえるように「伝える」手法で、積極的傾聴は、相手から「(聴いて)引き出す」手法です。コミュニケ―ションは、「伝える」と「聴く」の双方向で成り立っているので、PREP方式と積極的傾聴を組み合わせることでより効果的に相手に伝えることができると思います。 ---------- ●今週のtips 伝えたいことがあるときは「PREP方式」と「積極的傾聴」を使ってみよう ・「PREP方式」…Point(ポイント), Reason(理由), Example(例), Point(ポイント)の順番で伝える手法 ・「積極的傾聴」…相手に共感を示しながら質問を投げかけることで相手が話す内容を更に広げたり、深めたり、時には先に進めてあげたりすることで、相手に「気づき」を与える手法 ---------- 信元さんの連載「伝え方を鍛える」は毎週月曜に更新! 次回は「大勢の前で話すとき頭が真っ白になってしまったら…プロが教える回復術」について声の大きさや話し方はの正解のヒントを教えていただきます。
リップシャッツ 信元夏代(ブレイクスルー・スピーキング代表)