『Shrink』実写化を成立させた中村倫也 “ギャップの魔術師”だからこその弱井先生に
例えば、第2話で双極症(双極性障害)と診断された玄(松浦慎一郎)の自殺のリスクが高まった時、弱井は入院施設を持つ精神科病院と連携し、医療保護入院の手続きを進めた。さらにドラマでは珍しく、患者の退院支援や社会復帰をサポートする精神保健福祉士(PSW)の岩国(酒井若菜)も登場している。また玄が入院する際、弱井が彼の一番尊敬する恩師に説得してもらったように、患者の家族や知人にも病気を理解してもらい、サポートを得るのも大切。誰か一人に負担が偏ってしまわないように、患者を多くの人間で支えていく必要がある。 双極症やパーソナリティ症といった、これまで精神医療を題材にしたドラマでもあまり扱われてこなかった疾患に踏み込んでいる点にも筆者は誠実さを感じた。なぜなら、どちらも他人から誤解を受けやすい病であるからだ。玄がある日突然ベッドから起き上がれない状態になったかと思いきや、抗うつ剤を服用した途端にほとんど眠らなくても平気なほどにエネルギーがみなぎっている姿を見て驚いた人もいるだろう。 ハイテンションで万能感に満ち溢れる躁状態と、憂鬱で無気力な鬱状態を繰り返す双極症。人によっては躁状態になると性的な逸脱や浪費など破滅的な行動に出るため、人間関係が壊れることも。第3話(最終回)で取り上げられるパーソナリティ症もいくつかタイプがあるが、いずれも対人関係に問題が生じやすい。だけど、本人も苦しんでいるのだ。「兄は人が変わってしまった」と嘆く玄の妹・楓(土村芳)に弱井が「病がそうさせているだけです。本当の玄さんはその奥にいますよ」と語る場面は当事者やその家族の心を楽にするだけではなく、視聴者一人ひとりに病への理解を促している。 「そんなことで精神科にかかるなんて」と受診をためらっている人の背中を優しく押してくれる本作。惜しむらくは放送がもう残り一回であること。他にも原作では摂食障害やアルコール依存症、産後うつなど、様々な精神疾患を扱っており、どれも映像化してほしいエピソードばかりだ。あることがきっかけで医局を辞め、開業医となった弱井の過去もまだ掘り下げるべきところはたくさんある。続編が制作されることを願いながら、本日放送される最終回を見届けたい。
苫とり子