《連載:叫び 茨城・いじめ現場から》(5) 識者の声 追求 現場任せに限界 外部専門家の介入必要
小学校教諭の真理子さん=仮名=が駆け出しの頃、担任を務めるクラスで1人の児童が別の児童に囲まれ、「おまえのこと嫌い」と責め立てられる場面に出くわした。 「まさか自分のクラスでいじめが起きているとは」。想定外の出来事に、頭が真っ白になったという。 ■同僚の協力 いじめは、被害者をからかう「いじり」がエスカレートしたのが原因だった。真理子さんの目を盗みながら複数の児童による無視や悪口が横行し、クラス全体にいじめを容認する雰囲気が広がっていた。加害児童は聞き取りに「(被害児童は)笑っていた」。いじめ加害者という意識は希薄だった。 真理子さんは「もし逆の立場だったら、一緒に教室にいたいと思える?」。いじめに加わった自覚がほとんどない児童たちを根気強く諭し、被害児童の見守りも徹底。先輩教諭に助言を求めながら、児童の聞き取りや保護者への説明に時間を割いた。その後、いじめは教室から消えたという。「周囲に相談できる先生がいたから対応できた」。真理子さんは当時をそう振り返る。 ■「事実不明」も 子どもたちがスマートフォンを持つようになって久しい。交流サイト(SNS)ではグループ外しや中傷が横行し、大人の目が届きにくい「子どもの世界」でいじめが激しくなりつつある。 いじめが発覚しても教室に監視カメラはなく、加害者と被害者が入れ替わることもある。双方の主張が保護者を巻き込んで対立したり、被害者が率直に話してくれたりするとも限らない。名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)は「現場に下りていくほど、いじめは分からないことだらけ」と実感しているという。 内田教授は、隠蔽(いんぺい)など「問題のある学校はある」と指摘しながらも、「どうしようもなく事実が分からない場合があることを、学校外の人にも分かってほしい」と強調。事実の追求を現場任せにするのは限界があるとして、「外部の専門家の介入が必要」と訴える。 ■第三者委常設 2013年公布の「いじめ防止対策推進法」では、いじめ対応時の学校や教育委員会の役割を明記し、担任1人が抱え込まず、組織的に対応すべきとしている。県教委も17年、同法に基づき「いじめ重大事態」マニュアルを作成した。 ただ、対応を巡っては、市町村ごとにノウハウやスピード感に差があるのが実態だ。千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)は「不慣れな教育委員会では、第三者委員会の委員選定からしてつまずく」と指摘。委員に学校関係者が含まれて問題がこじれるなど「終了まで年単位の時間がかかることもある」と明かす。 対応が遅れれば、被害を訴えた児童の救済はさらに遅れる。「小さな自治体は広域で常設の第三者委を組織するのも手だ」。藤川教授は力説する。
茨城新聞社