乳がん治療と2度の転移、不安で泣いた私を救ってくれたのは… 病と向き合い続ける76歳が絵本を通して伝えたいこと
「私の経験が誰かの救いになれば」
長野県伊那市の宮下かね子さん(76)は、乳がんを経験した自身と3人の幼児たちとの交流を題材にした絵本「かねちゃんのおっぱいどこいったの?」(1200円、クラフト舎)を自費出版した。病と向き合い続け、不安で泣いた日々もあったが、絵本で取り上げた子どもたちをはじめ、友人らとの交流が心の支えになってきたというかね子さん。「私の経験が誰かの救いになればいい」と願っている。 【写真】絵本を手にする宮下かね子さんと夫の知夫さん
2度の再発…現在も抗がん剤治療中
かね子さんは52歳だった2000年12月、左胸にしこりがあることに気づいた。病院で乳がんと診断され、手術を受けた。60歳の時に肺にがんが再発したため、再び手術。72歳の時にも肺にがんが見つかり、現在も抗がん剤で治療中だ。
実話を基に創作を織り交ぜた絵本
絵本には、かね子さんのほか、いずれも3歳の女児が順に3人登場する。近所の共働き家庭などの子守を手伝う中で、この20年余りの間に出会った子どもがモデル。実話を基に創作を織り交ぜた。
子どもとの素朴な会話が印象的
子どもたちは、かね子さんの左乳房がないことを不思議に思い「どこにいったの?」と尋ねる。かね子さんが「とっちゃったんだよ」などと答えると、子どもたちは「なかないでね しんぱいしないでね だいじょうぶだよ」と励まし、「おっぱい」を探し始める―。かね子さんと子どもの素朴な会話が印象的だ。
優しい作風の絵と文章
優しい作風の絵と文章は、長野県上松町のイラストレーターで絵本作家の大畑哲也さん(43)が担当した。自身の病気の経験などを踏まえ、人を励ます作品を手がけている大畑さんに、かね子さんが協力を依頼した。
悲観的になったことも
がんと診断された当初は、悲観的になったこともあったというかね子さん。夫の知夫(ともお)さん(77)の「悪い所があれば、取ればいい」と前向きに捉える言葉にも励まされ、今は治療の傍ら、地域のお年寄りと共に自宅や近隣で「お茶会」を開くなど活発に活動する。
「今が一番幸せ」
絵本は元々、77歳の喜寿と乳がんと診断されて25年になる来年に向け、記念に作ろうと考えていた。想定より早く本格的な絵本ができ、知人らから「頑張っているね」と反響も届いている。「病気にいっぱいなったけど、今が一番幸せ」とかね子さんは穏やかに話す。絵本の売り上げの一部は、県内のがん患者を支援する団体などに寄付する予定だ。
絵本の購入方法は?
A5判、56ページ。千部を印刷。長野県内の書店「平安堂」などで扱っている。大畑さんのホームページ「『ありがTOH(とう)』企画。」でも絵本を購入できるほか、買える店を紹介している。