日中韓首脳会談: 安保巡る課題が鮮明に
高畑 昭男
岸田文雄首相と中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領による日中韓首脳会談が5月27日、ソウルで開かれた。貿易、人的交流など6分野の協力を柱とする共同宣言が採択されたものの、北朝鮮問題を巡る安全保障分野では「日韓」対「中国」の構図が鮮明となり、日本が議長国となる次回開催への課題も浮き彫りにした。
4年半ぶりの開催に思惑交錯
3カ国の首脳会談は、「日中韓プロセス」と銘打って2008年から原則年1回、持ち回りで開催してきた相互協力の枠組みだ。だが、2018年前後に慰安婦、元徴用工問題などを巡って日韓関係が戦後最悪の状態に冷え込んだことに加えて新型コロナの流行もあり、2019年12月に中国の成都で開かれて以降は開催が途絶えていた。 約4年半ぶりの再開にあたり、岸田、李強両首相、尹大統領の3首脳は全員初参加の舞台となった。いずれも「未来志向」を強調し、「日中韓プロセスの再活性化」に期待を明言したのは、自国民や地域社会に「前向きな貢献者」という好印象を植え付ける狙いがあったのは間違いない。 共同宣言にも、「首脳会談の定例化」に加えて、▽人的交流、▽気候変動と開発、▽経済・貿易──を含む「6つの主要分野」を明記したほか、具体的な協力項目として「2030年までに3カ国の人的交流を4000万人に増やす」、「日中韓自由貿易協定(FTA)交渉の加速を議論する」などを盛り込んだ(※1)。 3カ国の国内総生産(GDP)の合計は世界GDPの2割を超す。深刻な経済減速に悩む中国にとって、日韓を抱き込んでFTAの早期合意や貿易拡大をめざすメリットは大きい。また、前日行われた中韓首脳会談で、李強首相は中韓の「外交安保対話」新設、中韓FTAの後続交渉、サプライチェーン安定化のための「中韓協力・調整協議体」の開催などの合意を取り付けた。日米韓の連携から韓国を引きはがそうとする狙いを感じさせる積極外交だった。
安保構図を一変させた韓国政権
これに対し、過去4年半に地域や世界で起きた安全保障環境の変化による影響も見過ごせない。ウクライナ情勢や北朝鮮の核・ミサイル開発などもあるが、とりわけ大きな変化は2022年5月、韓国で尹錫悦政権が発足したことだ。 尹大統領は日韓関係悪化の要因となっていた元徴用工問題に区切りをつけ、昨年8月に米キャンプデービッドで開かれた日米韓首脳会談では、日米・米韓両同盟の「戦略的連携の強化」を約束した。中国・北朝鮮に傾斜していた前政権の外交路線に決別し、「対中抑止」に大きくかじを切ったことで日韓関係の飛躍的改善をもたらした。日本にとって、韓国が14年ぶりに「パートナーとして協力していくべき重要な隣国」(2024年版外交青書)(※2)と評価されるまでになったことが今回の首脳会談にも反映されている。 過去の日中韓関係においては、慰安婦や元徴用工問題で中韓がタッグを組んで日本を非難する「中韓」対「日本」の構図が珍しくなかった。しかし、尹外交によって、少なくとも安全保障分野ではそうした構図が様変わりしたといってよい。