トランプ2.0はインフレ2.0~FRBのナローパス~
「トランプ2.0はインフレ2.0」という難題
前回noteでも議論していますが、実際、次期トランプ政権で予想される各種政策は基本手にインフレ誘発的な性格を有するものが多いです:
にもかかわらず、トランプ氏は金融・通貨政策に関して低金利やドル安への志向を吐露するという支離滅裂な行動を繰り返すことが予想されるでしょう。前回も述べたように、総需要を高める拡張的な財政政策や輸入単価を引き上げる通商政策、労働需給をひっ迫させる移民政策などが相まって第二次トランプ政権下での米国の一般物価はどうしても加熱しやすいはずです(実際にそうなるかどうかはさておき、そう読むの論理的です)。 現時点では「トランプ2.0はインフレ2.0」と解釈しておくのが無難です。肝心なことは、米国の通貨・金融政策はこれらの政策を受けて事後的に決まるに過ぎない、ということです。結局、トランプ氏が低金利やドル安を希望しても実体経済がそれを許すかどうかは別次元の話です。トランプ氏のやりたいことを全て実現すれば、米金利とドルの相互連関的な上昇は発生しやすく、利下げ局面に入ったばかりのFRBはナローパスに追い込まれます。 前回政権の教訓を踏まえれば、トランプ氏の政策運営でインフレが高止まりしているにもかかわらず、パウエル議長がトランプ氏から再三叱責を受けるという滑稽な構図は如何にも予見されるところです。今後、トランプ氏がXなどを通じて低金利やドル安への志向を発信することで金融市場がそれに迎合する取引を行うことも予想されますが、基本シナリオとしては「トランプ氏自身が終わらないインフレの体現者」としてFRBの障害になり続ける可能性がメインシナリオになりましょう。 多くの市場参加者は既に忘れてしまっている事実ですが、パンデックの最中、多額の現金給付に象徴される拡張財政を展開し、インフレの芽を蒔いたのは第一次トランプ政権でした。もちろん、バイデン政権もそれを引き継いだので結局、共和・民主両党がインフレ高進については同罪ではあります。しかし、第一次トランプ政権時代からトランプ氏のイメージはインフレ高進と親和性が高いのは間違いないでしょう。「トランプ2.0はインフレ2.0」でもある可能性を前提にすれば、「利下げの終点」が争点化する時期が筆者想定(25年下期)よりももっと早くなる可能性に構えたいところです。
唐鎌大輔(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)