“超高級車”の知られざる購入方法とは?
ロールス・ロイスがソウルに開設した「プライベート・オフィス」へ、小川フミオが訪ねた。顧客のあらゆる好みに応える、特別な空間をリポートする。 【写真を見る】ロールス・ロイスのプライベート・オフィスに潜入!(19枚)
異世界
ロールス・ロイスは、自分だけのクルマを作りたいという顧客の要望に応えるためプライベート・オフィスを展開中だ。2024年にはソウルに開設。同年11月27日、メディアに公開された。 プライベート・オフィスと名付けられた、特注(ビスポーク)のためのショールーム。本社のあるイギリス・グッドウッド、ドバイ、上海、ニューヨークに次いでソウルは5箇所目となる。早くも日本かも顧客が訪れて、世界に1台しかないロールス・ロイスを注文しているとか。 そもそもロールス・ロイスのプロダクトは、「ほぼビスポークのようなもの」(広報担当者)という。カタログだけで4万4000色におよぶ車体色が用意され、ボンネットやルーフ部分と、フェンダー部分との塗り分け(色の組合せ)の自由度も高い。シートを含めた内装についても同様だ。 プライベート・オフィスは、「それだけでは物足りない」という顧客のための空間だ。車体に独自なカラーリングを施したい、シートに刺繍したい、ダッシュボードに絵を描いてもらいたい……、という具合。 「私たちの仕事は、聴き、応えることです」 ソウルでの発表会に本社から足を運んだロールス・ロイス・モーター・カーズのクリス・ブラウンリッジ最高経営責任者は、そう説明してくれた。 プライベート・オフィスには、本国からデザイナーが派遣され、顧客とじっくり話し合って、要望を聞いたうえで提案を実施。作業は本社のデザイン部や内外装を担当するビスポーク担当部署と連携しながら行われる。 「自分も本社でビスポークを担当していたので、技術的なことが理解できているので、実現可能なぎりぎりの範囲まで提案できます」 ソウルに常駐する英国人、ジェイムズ・ロバート・ベイズンは解説する。 ソウルでは、韓国の韓紙(ハンジ・韓国伝統の手漉き紙)のイメージや、彼の国の文化を活かした提案も出来るそうだ。といっても、韓国だから韓国的、ニューヨークなら米国東海岸的と、テイストが限定されるのでなく、「あくまでも、そういうことも提案できる、というレベルで考えていただきたい」(ベイズン)とのこと。 ソウルでは、孔雀をイメージしたカラーリングという興味深い注文例を見せてもらった。車体がフロントのホワイト系からリアのブルー系へとグラデーションで塗られていて、クジャクの羽をイメージした装飾が施されている。 どうせなら、ボンネットに立つスピリット・オブ・エクスタシーの、風にたなびくようなベールも孔雀の羽にしたらどうだったろう……あるいはロールス・ロイスのシンボルであるので、いくらビスポークといえども、アンタッチャブルな領域なのだろうか。 「(24年)11月に発表した『ファントム・エクステンデッド・ゴールドフィンガー』は、映画(007ゴールドフィンガー)で悪役のオーリック・ゴールドフィンガーが自身のファントムのボディパネル内に金塊を潜ませ密輸していたことにちなんで、スピリット・オブ・エクスタシーに18金の金加工をほどこしています。サマトラケのニケ像を載せてほしいという注文もあります」 プライベート・オフィスのもうひとつユニークな点は、人目につかないように存在している点。ソウルはソンパ(松坡)区にあり、表示を見ても、一般にはそこがロールス・ロイスの特別な空間だと気づかないだろう。 一歩足を踏み入れると、白木を使った落ち着く内装で、これみよがしの豪華さでなく、あくまで品のよさを感じさせる。引き出しの中には、塗装やレザーの膨大なサンプルが収められていて、顧客にはパラダイスかもしれない。 ビスポーク・クライアント・エクスペリエンス・マネージャーの韓国人、ジェフリー・チョイは、化学を専攻した後、スイスのホテル学校卒業という経歴の持ち主で、英語も堪能。客あしらいはすばらしく、日本人顧客にもファンがいると聞いても、まったくふしぎではない。 「ロールス・ロイスの急成長市場のひとつであるアジア太平洋地域では、近年、ビスポークの創造性と洗練性が飛躍的に高まっています。プライベート・オフィス・ソウルの開設は、こうした需要の高まりに応えるもの」と、ロールス・ロイスではプレスリリースに記す。 ソウルが選ばれたのは「市場に勢いがあって、クリエイティビティティを強く感じさせる都市だから」と、前出のブラウンリッジ。将来は、日本を含めアジア圏でも拡大していきたいとも。 日本のクライアントはソウルに来て注文することを楽しんでいるそうだが、その人たちにとって問題は、多忙で時間がないこと、とか。仕事と趣味、どちらに時間を割くか。富裕層にとっての悩みをどう解決していくかが、今後の課題なのかもしれない。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)