低みから誇ってみせる「貧乏マウント」と「安物買い自慢」 会話の潤滑油として成立させる分岐点は?
ただ、「自慢」と言われると、ちょっと違う、と女性は言う。 「たいがいは聞かれもしないのに言うんですけど、それは自慢とかではなくて、親切心みたいな気持ちかな。そもそも安くで買ったことは恥ずかしいことではないんです。お得やったから教えてあげよ、みたいな」 この女性に、周囲から安物自慢をされた時にどう感じるか尋ねると、こう即答した。 「うらやましいと感じます。たいていは『どこで買ったん?』と聞き返しますね」 おのずと会話が弾む、というわけだ。この女性は以前、単身赴任中の夫を訪ねた東京でこんな経験をしたという。 都心のおしゃれな喫茶店。女性店主から「あら、その財布、アナスイ?」と声をかけられた。ブランドの「アナスイ」にそっくりのデザインだったが、実は格安の「バッタもの」だった。これが大阪なら「違うねん、安くで買ってん」とアピールするところが、この女性はうつむいたまま小声で「はい」とうなずいてしまったそうだ。「安物自慢」は東京の人には通用しない、と本能的に悟ったのだ。 そう言えば、兵庫県出身の筆者もつい先日、腕に着けたスマートウォッチをひけらかし、「このスマートウォッチ、2千円台で買ったんですよ」と聞かれもしないのに周囲に報告しまくっていた。しかし東京では「えっ、嘘! どこで売ってるの?」という予期した展開にはならず、拍子抜けすることの連続だった。 小学校低学年の頃のほろ苦い記憶もよみがえる。近所の商店街を一緒に歩いていた母親にクリスマスケーキをねだると、「あと1日待ったら安くなるから、ちょっとだけ我慢しなさい」と諭された。クリスマスの翌日、同じ店に行くとなんとケーキは半額に。待ちわびたケーキの味はひときわ美味しかった。鮮やかなマジックを見たような感動を覚えた筆者は母の手腕を誇らしく感じ、小学校の作文に顛末(てんまつ)を洗いざらい書いた。すると、なぜか担任教師の琴線に触れ、学年集会で作文を読み上げられた。高揚した気分で帰宅すると、近所のママ友に一足早く作文のことを聞いていた母親から、「なんであんなん書いたんや、恥ずかしくて外出られんわ」と顔を真っ赤にして怒られた。あれも今思えば、安物自慢だったのかもしれない。 そもそもなぜ、関西人は安物自慢をするのか。国際日本文化研究センターの井上章一所長に聞いてみた。 「おっしゃるような傾向は概してあるように私も思います。しかし、どんな街にもいろんな階層の方々がいらっしゃるので、対比にやや偏りがあるかな、とも受け止めました」 たしかに、映画「男はつらいよ」シリーズに出てくる東京の下町の「おいちゃん」や「おばちゃん」なら、安物自慢をしていそうだ。