木野花が思う「男だ、女だ」の前に必要なこと…知られざる”青森のナイチンゲール”の存在
男だの女だの前に、創造的な話し合いをしたい
八戸赤十字病院の看護部長から青森県庁で衛生部看護課係長に抜擢され、異例の「女性の係長」として世間から注目を集めた花田さんだが、典型的な男性社会で根強い偏見に苦しめられた。陰口を叩かれたり、意見を述べると罵倒されたりすることも。 当時の検診について異議を申し立てると、医師でもある部長から「医者は便所の中にいても指示を出すことができる。看護婦は医者の指示に従わなくてはいけないのだ」と言われたというエピソードも映画に反映されている。それでも負けずに信念を貫いた人だった。 「私も若いころから、相手が男性でも年上でも言いたいことは言ってしまうほうでした。昔の劇団は本当にハラスメント演出が多かった。『それは女の考えだ』とか、『だから女は』などとよく言われたものです。『女が女の考え方をして何が悪いの』と不思議で仕方がなかった。男だの女だの言う前に、それぞれの考え方の違いを面白がり尊重して、創造的に話し合って芝居作りがしたかった。ちゃんとコミュニケーションをとりたいのに、そこにたどり着かない。はがゆいというか腹立たしいというか――。本当に腹立たしかったんです」 木野さんは大学の教育学部で美術を学び、卒業後、青森で中学校の美術教師をしていたが、学校という窮屈な枠の中で教えることに限界を感じて1年で退職。上京して演劇の世界に飛び込んだという経歴がある。 「こんな理不尽なことを言われるために教師を辞めたわけじゃないと一念発起、養成所時代の仲間たちと女性だけの劇団『青い鳥』を旗揚げしてしまいました。女だけでどんな芝居ができるか観てみたかったんです。行動力があるといえばそうかもしれませんが、まあ、私の場合には花田さんとは違って己のためにやってきたことですから。似ているところは、 “じょっぱり”なところかな」 この映画で木野さんが演じるのは、そのような過去を背負った晩年の花田さんだ。そこには、人を寄せ付けない孤独な姿があった。木野さん演じる花田さんからは、それまでの人生が見える。 「その姿は、“情熱と行動の人”と言われた花田さんと同じ人とは思えない変わりようでした。人とのかかわりを絶って一人静かに暮らし、やがて訪れる死の覚悟と準備をしていた人。孤独や不安もあったかもしれません。ただ、同じ孤独でも、あえて一人になろうと人嫌いになっていった花田さんがいて、そこには毅然とした強さが感じられます。私もまた、晩年という時期にさしかかり、自分と重ねあわせて花田ミキさんを生きるという得難い時を体験させていただきました」
太田 美由紀