日銀が注目しはじめた「金融緩和の副作用」
日銀が4月27日に発表した「展望レポート」では、消費者物価が2%に到達する時期についての記載が削除されました。異次元緩和が始まった当初は「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」として2%への到達時期は2015年度が予想されていましたが、その後は原油価格下落などを理由に複数回にわたり後ろ倒しされ、直近1月時点では「2019年度頃」とされていました。今回、削除に至った経緯は、これまで繰り返されてきた2%到達時期の先送り(とそれに対する批判)に終止符を打つことが大きいとみられます。
文言削除は出口戦略着手への布石という見方もあるが……
この文言削除について、一部市場関係者は「物価目標達成のコミットメントを弱める意図がある」と受け止め、出口戦略着手への布石と解釈したようです。筆者はこうした見方には懐疑的ですが、一方で日銀としても2%目標の道筋が見えるまで金融政策の正常化に踏み切れない、という現状を打破したい思惑があるのは事実でしょう。 こうして考えると、日銀の出口論を正当化させ得るものとして、物価以外の要素にも注目する必要がありそうです。それは金融緩和の「副作用」です。それを理由にすれば、物価目標の達成以前に出口戦略の着手が可能になるからです。 金融緩和の副作用として代表的なのは、2017年に話題になった金融機関収益への悪影響、いわゆるリバーサルレート議論です。行き過ぎた低金利が金融機関に打撃を与えれば、金融機関の体力が削がれる結果として貸出が抑制されるなど、望ましくない結果を引き起こす恐れがあるからです。 そして、ここへ来て注目すべきは、日銀が4月に発表した金融システムレポートで指摘した、もうひとつの副作用です。同レポートでは「金融循環の面で、目立った過熱感は窺われない」との見解を示しつつも、日銀が定点観測している指標(不動産向け貸出、株価、家計向け貸出など)では観察することのできないリスクとして、一部金融機関が「『ミドルリスク企業』向けを中心に低利による貸出を積極化させている」ことを指摘。補足説明として「金融機関や企業・家計が緩和的な金融環境の継続を前提に行動するようになると、緩和的な金融環境でしか持続し得ない非効率な資源配分が実現し、マクロ環境が反転した際に、予想外の損失を被る可能性も考えられる」と言及しています。 ミドルリスク企業とは、財務面でやや信用力の劣る企業を指し、そうした企業への“低利貸出”が増加していることを問題視しています。本来、貸出はリスクに見合った金利が設定されるべきですが、銀行間の競争が激化する下、採算を度外視した行動が一部でみられる、と警鐘を鳴らしています。金融緩和が長引く現状、金融機関の過剰なリスクテイクによって実行された貸出が将来の景気後退局面で予期せぬ逆効果を招くという懸念です。 日銀の最重要目標が「物価」である以上、こうした「副作用」が主役級の存在感を示すとは直ちに考えにくいものの、金融緩和の出口が見えにくいなかで、今後は物価以外の要素にも注目する必要がありそうです。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。