世界を震撼させる「ディディ事件」を解説。男女からの告発、1000本以上のベビーオイル…何が起きたのか
◆1000本以上のベビーオイルとローション
2024年3月には、国土安全保障省の捜査チームが、カリフォルニア州とフロリダ州にあるディディの邸宅を、重武装で家宅捜索に入ったことが世界でも大きく報じられる。大物ラッパーの自宅をSWAT(スワット)チームのような捜査員らが急襲した映像は世界中で取り上げられ、衝撃を与えた。 家宅捜索では、大量の違法薬物と、違法改造AR-15ライフル(足が付かないよう製造番号などがないもの)が5丁、さらに1000本以上のベビーオイルとローションなどが押収されたことが明らかになっている。 5月になると、またディディのショッキングなニュースが報じられた。アメリカのケーブル局・CNNがニューヨーク州にあるホテルの監視カメラの映像を独占入手し、公開したのだ。そこには、腰にタオルを巻いた半裸のディディが、ホテルの廊下で元恋人のベンチュラを暴行する様子がはっきりと写っており、これまでのディディの暴行疑惑を裏付けるものとなった。 これまで強気だったディディもこれには観念し、「あのビデオの私の行動は許しがたいものだ(中略)セラピーを受けた。リハビリ施設に入らなければならなかった。神の慈悲と恵みを求めなければならなかった。本当にごめんなさい」と、反省を語った動画を公開するに至った。 9月に入り、ディディは、ニューヨーク州で国土安全保障省の捜査官によって逮捕された。その時の様子を写した動画も出回り、ディディ側は怒り心頭だと言うが、もはや弁明もできないレベルになっている。 人身売買および組織犯罪の容疑で起訴されるに至り、逃亡や証拠隠滅の恐れがあるとして今も保釈されないまま拘留されている。 加えて今後、アメリカの弁護士がディディに対する120件ともいわれる訴訟を準備している。
◆ディカプリオ、ビヨンセ……疑惑が浮上する大物関係者たち
さらにディディの問題では、彼と交流のあったさまざまな有名人の名前も取り沙汰されており、アメリカのメディアで注目されている。例えば、ディディのパーティに参加していた写真が浮上した俳優のレオナルド・ディカプリオや、ラッパーのジェイ・Zと妻で歌手のビヨンセ、俳優のアシュトン・カッチャー、タレントのパリス・ヒルトンらの名前も挙がっているのだ。 歌手のアッシャーはディディの家に居候をしていたこともあるようで、性的暴行の被害を受けた1人であるとの証言も出ており、今回の騒動を受けて、過去のSNSの投稿を削除しているのが確認されている。またジャスティン・ビーバーもディディと関係が深いが、彼もディディらによる性的暴行の被害者だという話も浮上している。 ディディが日常的に行っていた「フリークオフ」という乱行パーティでも、薬物疑惑や暴行疑惑が渦巻いていて、さらにいろいろな話が飛び出す可能性もある。アメリカのメディア界も目が離せない状況が続いている。 今後、この騒動がどう展開していくのかは予測不能だが、少なくとも、ディディが謳歌してきた「宴」はもう完全に終わってしまったと言えそうだ。 この記事の筆者:山田 敏弘 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
山田 敏弘