「中国の買値は3割高い」日本から中国へ急増する“牛肉”の輸出
かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著です。2023年7月26日発売の幻冬舎新書『買い負ける日本』は、調達のスペシャリスト、坂口孝則さんが目撃した絶望的なモノ不足の現場と買い負けに至る構造的原因を分析。本書の一部を抜粋してお届けします。第7回。
中国人バイヤーは金払いがいい
2023年には豊洲市場で青森の大間産本マグロに3604万円の値がついた。落札者は「銀座おのでら」を運営するオノデラグループと水産仲卸「やま幸」だった。また常連として「すしざんまい」の木村清社長の姿もあわせて全国ニュースで報じられた。 そのいっぽうで、中国人バイヤーの存在が大きくなっている。水揚げ金額が日本一であると知られる焼津港では中国人バイヤーが跋扈する。もちろん跋扈といっても違法な行為をやっているわけではない。 中国人のあいだではマグロの解体ショーが人気だという。中国の富裕層を中心に日本旅行などの経験から「マグロの旨さに気づいてしまった」ため、日本に質の高いマグロを求めて中国人バイヤーたちがやってきている。 中国人バイヤーは「かなりの量を求め」かつ「金払いがいい」。そうなると仲介業者も売らないはずがない。中国人バイヤーは中国人バイヤーで、中国の消費者が求める金額上限まで仕入れることは経済合理的だ。 世界では一人あたりの魚介類消費量が50年で2倍になったのにたいし、中国ではなんと約9倍にも伸びている。日本はその魚介類消費量は50年前と比べて下回っており、中国に肉薄されている状況だ。しかも、肉薄されているのは一人あたりだが、両国では人口がまったく違う。 水産庁が公表している1988年から2020年の「まぐろ類」の国内生産量は26万トンから11万トンに下がっている。また輸入量は46万トンから28万トンと同じく減少している(農林水産省「漁業・養殖業生産統計」、財務省「貿易統計」)。各弁当店でマグロが仕入れられずに使用魚を変更したといったニュースが流れた。 マグロだけではなく漁業者から卸売業者に販売している魚種は総じて2022年に前年より値上がりした。それは大衆魚にも及ぶ。マグロのような高級魚だけではなく、円安、漁獲量の減少や原油価格の高騰に加えて、諸外国への買い負けが生じているからだ。2022年には大手回転寿司チェーンが価格改定を発表したのも記憶に新しい。 またズワイガニも5年で倍近くの金額になっている。世界中で食する人たちが増えた。需要が急増し、かつ日本は高値で応札できていない。結果、日本の輸入量は2022年までの10年で約2割減少し、そして金額は約2.2倍になった。