「国籍選択の機会の不平等」問う違憲訴訟で請求棄却 原告男性は“1歳”で日本国籍を喪失も…「手続き“前”までは保障あった」
「事前」に保障されていたから「事後」の保障は必要ない?
今回の判決で、裁判所は「原告は親が英国籍を志望取得したことで国籍選択の機会を『事後』に失ったが、その志望取得手続きの『事前』までは原告にも機会は保障されていたのだから、本件は平等原則違反には当たらない」との論理で、原告の請求を棄却した。 判決後の会見で、原告代理人の近藤博徳弁護士は2021年や2023年にも類似の事例で東京地裁や福岡地裁が同様の判断をしたことを指摘しつつ、「裁判所の論理はレトリック、ごまかしに過ぎない」と批判した。 「原告は、日本国籍を喪失した時点では1歳の子どもだ。それなのに『事前に機会があった』という理屈はおかしいのではないか。このことを裁判所が疑問にも思っていない様子なのが残念だ」(近藤弁護士) 前述したように、当然取得による複数国籍者が日本か外国かの国籍を選択して単一国籍になる際には、国籍選択届の提出という手続きが必要になる。逆にいえば、届を提出しなくても、それによってどちらかの国籍を失うことはない。 近藤弁護士によると、このような国籍選択制度の運用について、国会では「本人による選択の機会を保障しなければならないため」と判断されたという。 「裁判所は、選択の機会の保障を重視する国籍選択制度に無理解だ。法律の条文によって『事前に保障されていた』と主張するだけでなく、機会を実質的に保障する必要がある」(近藤弁護士)
国籍は「選挙権」にも関連する
原告の代理人の仲晃生弁護士は、国籍は選挙権に関わる点を指摘した。 過去、最高裁は「選挙権の制約が許されるのは、きわめて限定的な、やむを得ない場合に限られる」と判断している。選挙権は国民主権の原則に関わる、重大な権利であるためだ。 「しかし、今回のような判決では、日本国籍の地位を本人の意思に反して喪失させることが、容易に認められてしまっている。 制度上、国籍を喪失させる根拠は『複数国籍による弊害のおそれ』だが、その『おそれ』が実現したことはこれまでにない。それなのに、日本国籍を持つことができたはずの子どもたちを、日本から追放していくのが良いことだと思うのか」(仲弁護士) また、近藤弁護士は「今回の裁判は『複数国籍を認めよ』と主張するのではなく、『選択の機会を与えよ』と求めるための裁判に過ぎない」と語った。 原告側は控訴を検討している。
弁護士JP編集部