<囲碁>四天王最後の砦・山下は井山五冠を跳ね返せるか
9月5日に開幕した囲碁の第38期名人戦。七番勝負第2局は9月19・20日、広島県尾道市で行われる。先に4勝して第38期名人となるのは山下敬吾名人か、それとも井山裕太五冠か。山下名人は3連覇を、井山五冠は3期ぶりの名人復帰をかける。
井山裕太五冠を中心に回る囲碁界
第1局は東京都文京区の「ホテル椿山荘東京」で、2日間、およそ15時間かけて対局が行われ、白番の山下敬吾名人が先勝した。 囲碁界は現在、5つのタイトルを持つ井山裕太五冠を中心に回っている。数年前までは平成四天王と呼ばれていた山下敬吾名人、張栩九段、高尾紳路九段、羽根直樹九段を中心に動いていたが、その四天王たちも現在は、なかなか井山の壁を崩せないでいる状況だ。羽根九段は昨年の碁聖戦で井山に挑戦するも敗れ、張九段は今年3月、井山に棋聖のタイトルを奪われた。高尾九段は今年7月、本因坊戦で井山に挑戦するも敗退している。 もちろん四天王が易々と明け渡すはずはない。タイトルを奪う側から、防衛する立場になった井山に、次から次へと挑戦状を叩きつけている状況だ。 そんな四天王の現在最後の砦が山下名人である。ファンは、世界一になった井山の活躍を願う一方で、四天王にもまだまだ踏ん張って欲しい気持ちがある。もちろん山下自身もそうだろう。「井山の独壇場にはさせない」。名人戦開幕前の山下もそんな気合に満ちていた。
乱戦を制した山下の第1局
トッププロ同士の対局では、実力はほぼ拮抗している。差がつくのは、その人が持つ勢いや、相手との相性だったりするものだ。 多くの棋士には、「この人は少し苦手」という相手がおり、全体の成績が良くても、個別の相手には対戦成績が偏ってしまうことがある。だが山下は苦手な相手が少ないタイプで、誰が相手でも飄々としており、自分の打ち方、我が道を貫いている印象がある。 そんな山下と井山の対戦には、多くの注目が集まった。対局は、盤上全体が戦場になったかのような激しい碁。中盤以降はずっと、ボクシングの乱打戦が繰り広げられているような激しい戦いの連続で、これぞ山下の碁、という内容だった。 囲碁の対局には色々な展開がある。お互いに相手の様子を探りながら、じっくり打ち進めていく碁、自分からどんどん仕掛けて乱戦に持ち込む碁。同じ碁は2つとしてなく、相手によって展開が全く異なるのが魅力でもある。 名人戦第1局は、序盤、山下が井山の作戦にのり、井山の思う展開になった。だがその後、山下が戦いを仕掛けたところから、大乱戦に発展する。 井山は、常に最強手を目指して打つ棋士である。妥協せず、どんな場面でも最強の手を打つ。その戦い方で次々にタイトルを獲得してきたが、この碁では、そんな井山のスタイルが裏目に出てしまった。 大乱戦の途中、井山が妥協して安全策を取れば、優勢になる場面が何度もあった。だが井山は、自分のスタイルを貫き、常に最強の手を選んだ。その結果、戦いはどんどん難解になり、最後、勝負は山下に軍配が上がった。 自分の打ち方を貫いて負けた井山、逆に乱戦という自分のスタイルを貫いて勝利した山下。名人戦七番勝負はまだまだ始まったばかりである。四天王・山下が井山を跳ね返すか、それとも世界一の井山が、四天王の最後の砦を撃破するのか。 (ライター 王真有子)