認知症患者と上手につきあう「5つの会話テク」“褒め言葉”は相手の言葉の中にヒントがある
ポジティブになる“褒ミュニケーション”
そして、川畑さんがもっとも重要だと語るのが、【5】褒めることだ。 「私は、認知症の人とのコミュニケーションは『褒ミュニケーション』と呼んでもいいと思っています。お互いがポジティブになれ、晴れ間を作り出す重要な要素だからです」 ◆2タイプの褒めるメッセージ 褒めるメッセージは、大きく「私(I)が感謝する」「相手(YOU)を褒める」の2つの出しかたがある。 「私(I)が感謝する」は主語が「私」で、「ありがとうございます」「助かりました」「びっくりしました」「楽しかったです」「勉強になりました」などと感謝のメッセージを伝える言葉。対して、「相手(YOU)を褒める」言葉は、相手の能力や行動を褒める「すごいですね」「さすがですね」「えらいですね」「一番ですね」といった内容だ。 これらは『Iメッセージ』と『YOUメッセージ』と呼ばれているもので、相手がどちらを好むか観察してメッセージの出しかたを決めるようにしよう。 ◆褒め言葉は相手の言葉にヒントがある 褒めることは重要とはいえ、なんでもかんでも「すごい」と大げさに褒めてしまうと、介護される側はバカにされているのかと不快に感じることもある。 「想像してみてください。大の大人であるあなたが、小学生にかけるような言葉を浴びせられたら、むしろ腹が立ちますよね。私たちはつい忘れてしまいがちですが、認知症の人は、できないことが増えていくだけで、豊かな感情はしっかりと保たれています。認知症である前に『大人(ひと)』なのです」 人は、自分自身が言われてうれしいと感じる言葉を無意識に人に対して使うことが多いため、相手がどうやって他人を褒めているか、観察することでその人が喜ぶ褒め言葉のヒントが見えてくるはずだ。 川畑さん自身、きれいな折り鶴を折った86歳の佐藤さんへ「すごいですね!」と声かけをしたところ、彼女は「なにもすごくないわよ」と不機嫌になり、嫌われてしまったという。 「そこで私は、佐藤さんがなにかを気に入ると、いつも『素敵ね』と言っているのに気づき、次に折り鶴を折ったときは、『素敵ですね』と言ってみました。すると佐藤さんは、にっこりと笑い『あら、ありがとう。あなたにあげるわ』と言って、私に折り鶴をくれました」 このように、本人の口から出てきた「褒め言葉」に注目するのも、お互いが笑顔になれるコミュニケーションを行う際のポイントとなる。 ◆教えてくれたのは:理学療法士・川畑智さん かわばた・さとし。理学療法士。熊本県認知症予防プログラム開発者。株式会社Re学代表。1979年、宮崎県生まれ。理学療法士として、病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立し、熊本県を拠点に「脳いきいき事業」を展開。さらに、脳活性化ツールの開発に携わったり、講演活動を行ったりしているほか、メディア出演や著作も多数。 ◆監修:脳心外科医・内野勝行さん うちの・かつゆき。脳神経内科医。医療法人社団天照会理事長。金町駅前脳神経内科院長。帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の療養型病院を経て、現在は金町駅前脳神経内科の院長を務める。脳神経を専門として、これまで約1万人の患者を診てきた経験をもとに、薬物治療だけでなく、栄養指導や介護環境整備、家族のサポートなどを踏まえた積極的な認知症治療を行っている。著書に『1日1杯 脳のおそうじスープ』(アスコム)など。