なぜポカリスエットは40年間デザインを変えないのか
子どもの頃から「風邪をひいたら飲みなさい」と言われてきたポカリスエット。 青い背景色に「POCARI SWEAT」という太字のフォントのみという潔いデザインが特徴だ。 さまざまなパッケージがひしめき合う自販機の中でも、10メートル先からも観測できるほど目に入ってくる。 このパッケージ、実はオーストリア出身のデザイナーの作品ということをご存知だろうか。
青は「まずい」色だった
1980年「飲む点滴」というコンセプトの元、国内初のスポーツドリンクとして発売されたポカリスエット。 今までにないカテゴリー、かつ大塚製薬の肝入りのプロジェクトであったため、他製品に埋没してしまうデザインは採用したくなかったのだろう。 そこで白羽の矢が立ったのが、大阪を拠点に活動していたオーストリア出身のデザイナー・タイポグラファー、ヘルムート・シュミット氏(1942年~2018年)だった。 「デザインは本質を表現するもの」というデザイン信念をもつ彼は、生命の源である海の青と波の白に着目した。 公式ニュースリリースによると、今となっては青いラベルの清涼飲料水をよく見かけるが、当時は青=売れない色として飲食物に使用することは避けられていたという。恐らく、青は食欲減退色だからだろう。 だが、ポカリスエットの本質的なコンセプトと合致するということで採用されたそうだ。
白い波のラインはグラフだった
POCARI SWEATという白文字の下に描かれている波のようなライン(サーフライン)にも意味がある。 大塚製薬のnoteによると、実はデザインの依頼書に入っていた商品説明の「水と電解質(イオン)の吸収スピード」のグラフをそのままデザインに反映したものなのだ。 我々デザイナーは、なぜこのデザインが良いのかという「根拠」を元にデザインを組み立てる。その説明ができなければ、世の中に形として残せないし、何もないゼロの状態からデザインは作れないからだ。 あくまで私の想像だが、デザイナーは「飲む点滴」という新しいコンセプトを表現する手がかりを見つける際、ふと手元にあるグラフをモチーフにできないかと閃いたのだろう。 デザインの根拠が見つかれば、あとはロジックを組み立てていくだけである。 水とイオンの吸収スピードのグラフがある その形状が波のように見える 波といえば海である 海は青い色であり、生命の源だ ポカリスエットも水分補給という生命の根源的な欲求に答える商品である というようにデザインを逆算していき、グラフィックに落とし込めば軸がぶれない強いデザインが出来上がるという訳だ。
デザインを変える必要がない理由
根拠がしっかり組み立てられたデザインは力強く、ポカリスエットはその典型だ。 製品の機能自体がシンボルとなっており、青いパッケージが市場で強いアイデンティティを確立しているため、時代に合わせたリニューアルも不要である。だから、ポカリスエットは40年間デザインを変えていないのだろう。 また、シュミット氏はエネルゲンなど他の大塚製薬製品のデザインも手がけており、こちらもβカロチンを象徴するオレンジ色を採用しており30年以上パッケージが変わっていない。 彼の「デザインは本質を表現するもの」という信念が、流行に左右されない普遍的なデザインを生み出したと言えるだろう。
山中将司