経産省、国産旅客機2035年以降実現へ戦略案 スペースジェット反省生かせるか
経済産業省は、次世代の国産旅客機を2035年以降をめどに官民で開発を進める案を、3月27日の産業構造審議会で示した。三菱重工業(7011)によるリージョナルジェット機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の開発が2023年2月に開発中止となったことから、1社の単独事業ではなく複数社の参画による開発を促し、経産省が研究費などの面で幅広く支援し、MSJ失敗の反省点を生かすとしている。 【写真】パリ航空ショー出展を終えて離陸する三菱スペースジェット ◆「ゲームチェンジの機会訪れている」 経産省は「完成機事業を実施するにあたり、技術・開発・製造能力や事業体制が必要であり、いずれも我が国航空機産業に欠けている」と指摘。民間機で不可欠となる、機体の安全性を国が認める「型式証明」取得に向けた機体づくりのノウハウなど、技術的な部分だけでなく、機体を広く販売していく「事業」としても体制が不十分だったことを反省点とし、次世代機は機体開発に加えて、事業会社のあり方にも焦点を当てる。 民間航空機の市場は「年率3-4%で増加が見込まれる旅客需要を背景に、双通路機(ワイドボディ機)、単通路機(ナローボディ機)ともに新造機需要も拡大していく見込み」と、参入の好機ととらえる。また、アジア地域での需要増加や、単通路機が好調である市場環境に加え、「グリーン」「デジタル」「レジリエンス」「新興市場」の主に4つの環境変化が起きていることを指摘し、「ゲームチェンジの機会が訪れている」とした。 一方で、「ゲームチェンジの機会に直面している我が国の航空機産業が、さらなる成長を遂げるには、海外OEMの動きを待たざるを得ない産業構造から脱却する必要がある」として、現在のボーイングを中心とした海外の完成機メーカーに依存する日本の航空機産業の構造を見直すためにも、完成機事業への参入が方向転換につながるとした。 一般財団法人の日本航空機開発協会(JADC)と日本航空機エンジン協会(JAEC)がまとめた「完成機(GX機)事業創出ロードマップ検討会」の報告書によると、完成機の開発は2025年から概念設計や技術実証を始める案を示しており、開発開始から約10年後の就航が当面の指標になるとみられる。 戦後初の国産旅客機YS-11型機は、半民半官の日本航空機製造(日航製、1982年9月解散)が開発し、三菱重工など参画する各社が分担して製造にあたった。海外の旅客機事業は、米国はボーイング1社に集約され、欧州はフランスとドイツ、英国、スペインの4カ国が参画するエアバスが事業を展開している。 日本は自衛隊機を重工各社が別個に手掛けており、今後の民間機事業で、現在の世界的な潮流である1国1社集約型のビジネスモデルを取り入れるかも注目される。機体開発だけではなく事業会社のあり方なども、YS-11やMSJの反省点を生かすことが求められる。 ◆開発中止時点の総受注267機 MSJは、MRJ(三菱リージョナルジェット)ととして2008年に事業化され、開発費は総額1兆円とも言われる。また、補助金などの公的資金がこれまでに少なくとも約500億円投じられた。2019年6月に、機内の広さといった空間をアピールする狙いで三菱スペースジェット(MSJ:Mitsubishi SpaceJet)と改称。メーカー標準の座席数が88席の標準型「SpaceJet M90」(旧MRJ90)から開発しており、当初の納期は2013年だったが、6度の延期を経て、2023年2月7日に開発中止を正式発表した。 開発中止を発表時点での総受注は267機。このうち確定受注は153機、オプション(仮契約)と購入権は114機だった。一時は7社から計427機を受注し、うち確定が約半数の233機で、残りはオプションが170機、購入権が24機だった。今後20年間で5000機が見込まれるリージョナルジェット機市場のうち半分を目指すとしていたが、確定受注はその6%だった。 MSJは米国の飛行試験拠点「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(MFC)」でも試験が行われ、4機の飛行試験機が海を渡ったが、開発中止決定後に4機とも解体された。一方、国内にある飛行試験機は解体を免れており、今後の活用が検討されている。
Tadayuki YOSHIKAWA